『キングダム』における“もうひとりの主人公”に 大沢たかおが体現した“天下の大将軍”
『キングダム』における俳優・大沢たかおのパフォーマンス力
王騎を演じるにあたって、大沢が20キロもの増量とともに肉体改造を行ったことは広く知られている。意識的に増量をしたことのない人間からすれば驚異的な試みだが、王騎役を務める者としては最低限の準備ともいえるのかもしれない。事実、大沢の徹底ぶりは身体づくりにとどまっていない。 王騎はかなりクセの強いキャラクターである。独特な喋り方をし、笑い方も個性的。一歩間違えれば、たんなるギャグになってしまいかねない。もしもそんなことになれば、実写版『キングダム』はただのコスチュームプレイになっただろう。繰り返すように王騎は「天下の大将軍」であり、作品の象徴的な存在なのだ。主演の山﨑とはまた別の重責を、大沢は負っている。どのようにしてあの独特なセリフ回しを体得したのかは分からないが、広く観客に共有されているキャラクターを演じる行為に対する重みを感じながらも、チャレンジングな精神を持ち続けなければならなかったはず。こうして文字にしてしまうとシンプルなことに思えるが、私たちの想像を絶するレベルで王騎役に挑んでいたはずである。 これまで長い時間をかけて、大沢は王騎の人生を生きてきた。だからだろうか、劇中で王騎が叫んだりすると、安心安全なはずの客席まで彼の覇気に気圧される。私は封切り日に劇場でそれを体感したのだ。たしかに観客の誰もが震えていた。 ごく稀に、俳優が表現している情報の中身ではなく、“演技”というパフォーマンスそのものに対して涙を流してしまうことがある。『キングダム』における俳優・大沢たかおのパフォーマンスがまさにこれなのだ。恐ろしいほど高い彼のプロ意識によって、『キングダム』という大人気マンガの実写化はより高い次元へと到達することができたのではないだろうか。王騎を演じられるのは彼しかいなかったのだと断言できる。
折田侑駿