一世を風靡した悪役レスラー、ダンプ松本を主人公に、昭和の女子プロレスの世界を描いたネットフリックスの配信ドラマ「極悪女王」（全5話）をイッキ見した。 キャスティングと格闘シーンがお見事。試合は迫力満点だし、主要な出演者が実名だし、髪切りデスマッチといったリアルなエピソードも取り入れられているので、フィクションなのに途中からドキュメンタリーみたいに感じてしまっていた。 松本を演じているのは、お笑い芸人のゆりやんレトリィバァさん。新人時代の雑魚キャラぶりが絶妙すぎる。不器用で引っ込み思案で、鳴かず飛ばず。同期の長与千種（唐田えりかさん）とライオネス飛鳥（剛力彩芽さん）が「クラッシュ・ギャルズ」を組んで大人気になっているのを横目に、下積み生活を抜け出せずにグジグジ。 善良で内気な松本が、とあるきっかけから最恐のヒール（悪役）として暴れ回るようになるのだが、覚醒前後のギャップがすごい。ゆりやんさん、まったくの別人です。所作だけでなく声質まで変えている。満場の「帰れ」コールを楽しそうに聞いて、不敵な笑みを浮かべる。そんな立ち居振る舞いが、なんともしっくり似合うように。 プロレス界の先達が「スターになるようなやつってのはさ、勝手に光り出してくんだよ」と語るシーンがあるのだが、まさにそれを体現する千両役者ぶり。 逆境に耐えての成長、ライバルとの確執…などなど、スポ根ドラマとしてはザッツ王道。つい主人公に肩入れして、凶器で対戦相手を血まみれにするような反則攻撃も「やっちまえ！」と応援してしまう。 レスラーを縛る興行的な了解事項が効果的に使われている。現代社会に置き換えればコンプラ違反の同調圧力。共感しちゃうよね。 見始めたらきっとやめられなくなるので、お時間があるときに。あと、ラストシーンは一人で見るべし。まさかプロレスを見て涙腺が崩壊する日が来るとは。この演出こそ反則です。（ライター　篠原知存）