考察『虎に翼』やっぱりとにかく伊藤沙莉がいい!
名ナレーション、尾野真千子が支えるもの
『虎と翼』は強い思いと高い志がドラマの形で結実している作品ではあるけれど、それがこれだけ広く受け入れられている大きな要因に、伊藤沙莉演じる寅子のキャラクターがあると思う。主人公が魅力的であることは朝ドラにとって必須というよりもはや前提条件といっていいほどの要素だし、それぞれの朝ドラで主役が魅力を発揮しているのは言うまでもない。でもやはりその中で、伊藤沙莉という人が演じる寅子の、「はて?」に代表される、疑問や違和感をそのままにしておけないところ。喜怒哀楽をむき出しにしているように見えて案外と我慢強かったり、心に秘める思いがあったりするところ。それでもなるべく人とフラットに関わり合い、相手に笑顔を向けようとする姿勢が、観ている側をこの世界に軽やかにいざなっているように思う。 女性として初めての道を進もうとする主人公に襲いかかるいくつもの困難。さらには戦争も重なり、シリアスな展開は数え切れないほど訪れる。けれども、どんなに寅子がしんどそうにしていても、彼女のもつ根底の明るさが、いつも私たちを惹きつけて離さない。それは伊藤沙莉という人があらかじめもっているものなのかもしれない。 その魅力を倍増させているのが、尾野真千子によるナレーションだと思う。たとえば第4週で寅子が同級生の花岡(岩田剛典)と言い争い、結果として怪我をさせてしまったシーン。謝るに謝れない日々が続き、退院の報を聞いて病院に駆けつけるもひと足遅かったときの心の声、「無駄足!」。その熱の乗り方。寅子という主人公は伊藤沙莉と尾野真千子のタッグによって、さらに素敵な人になっている。 そういえば、と思い出す。ここでは「出る側」の伊藤沙莉自身も、最高のナレーションを披露したことがあった。放送から3年経った今なお名作の呼び声高い『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ)。ここで伊藤沙莉は松たか子演じる主人公・大豆田とわ子の魅力を増幅させるユーモラスなナレーションで私たちの心を掴んだ。すばらしき俳優たちの、切っても切り離せないバディのような関係性。直接演技を交わし合うわけではなくても、こんなふうに役を、ドラマを作りあげていく姿はかっこいい。