町村議員はブラック労働…成り手いない人口減少時代の町村議会、総務省検討
議員定数削減による負担感増
前述した大川村の人口は、約370人。かなり過疎は進んでいますが、議会が成立しないほど人口が少ないわけではありません。それでも議員の成り手が不足するのは、どういった理由があるのでしょうか? 「各市町村では少子高齢化や人口減少を見据えて、以前から行政改革に着手していました。着手された行政改革のひとつに、議員定数の削減があります。議員を削減したことで行政コストも削減できましたが、その一方で議員の負担感が増すという副作用があったのです」と話すのは総務省自治行政局行政課の担当者です。 議員定数を削減した結果、かえって一人の議員に求められる専門性・仕事量は増えてしまったのです。また合併した町村は、その町村域が広いために移動にも莫大な時間を要します。こうした高い専門性や仕事量・時間の増加が町村議員を苦しめ、議員の成り手不足に拍車をかけているのです。 「苦労の多い町村議員ですが、他方で得られる報酬はかなり低くなっています。政令指定都市の市議は平均月額報酬が約79万円、一般の市でも約40万円です。しかし、町村議員の平均月額報酬は、約21万円と極端に少ないのです」(同) 長時間労働で低賃金の町村議員は、今どきの言葉を用いるならば“ブラック労働”と形容できます。小規模自治体では、議員報酬だけで生計を立てることがままならないのです。
新たな2つの議会のあり方を検討
そうした経済的な事情もあって、町村議員の多くは農林漁業などに従事している自営業者か、地元企業の経営者が多くを占めます。専業議員は、ほとんどいないのです。 「総務省の研究会は持続可能な議会を実現するために、議員の成り手を確保する方策を探り続けています。そのため、議会制度を今の時代に対応することも検討中です。総務省の研究会では、現行議会にくわえて2つの新たな議会のあり方を提案しています」(同) 1つは、少数の専業的議員と多数の議会参画員からなる“集中専門型”です。これは、少数の専業的議員に通常の公務をこなしてもらいながら、裁判員制度のように一般有権者を議会参画員として議会に部分的に参加してもらうようなイメージです。 集中専門型では、従業員が立候補するために休暇を取得しても経営者はそれを理由に不利益な扱いを禁止。公務員が立候補する場合は離職しなければなりませんが、立候補をしやすいように復職制度を整えることを盛り込んでいます。 そして、もうひとつが“多数参画型”です。この方式では、多数の非専業議員によって議会が構成されるので、議員の負担感は軽減されます。そのかわり報酬は少なくし、議会は夜間・休日に開くようにするというものです。多数参加型では、ほかの地方団体の常勤職員との兼職を可にすることも想定しています。 「集中専門型も多数参加型も、完全に制度化するなら地方自治法を改正する必要があります。しかし、地方自治法に抵触しないような形で、夜間・休日に議会を開くなどの議会のあり方を工夫している町村も出てきています。いずれにしても、総務省や都道府県が市町村に適した議会の形を押し付けるわけにはいきません。また、各市町村も住民の声を聞いて、どういった議会がその自治体に適しているのかを判断する必要があります」(同) 2015年に実施された統一地方選でも、市長や議員の無投票当選がありました。来春には、各地で統一地方選挙が実施されますが、前回の統一地方選より無投票当選者が増えることも予想されます。このまま無投票当選が増えれば、現行の政治システムが機能不全になる危険性もあります。議員の成り手不足は、民主主義を揺るがす事態でもあるのです。 小川裕夫=フリーランスライター