外信コラム 阿川尚之氏が語った米国とトランプ氏 新聞の「独裁者」との解説に「分かってねーな」
12日に逝去した法学者の阿川尚之さんが4月に訪米した際、講演を聞く機会があった。阿川さんと交流のあった元海将の吉田正紀・双日米国副社長が主宰する勉強会で、憲法史から見た米国政治を語ったのだ。 「多数が一つの利益でまとまると、独裁者のように悪いことをする」。建国の父の中でも、民主主義が陥る「多数の横暴」に気づいたマディソン(第4代大統領)を評価した。憲法で主権を連邦と州の政府に、政府の機能を立法、行政、司法に分割させた。一見矛盾する「抑制と均衡」という原理で権力の暴走を制御できると考えたという。 「統一をどう維持できるか日夜苦しんだ」。阿川さんは南北戦争当時のリンカーンに触れると涙を浮かべ、トランプ前大統領には厳しい目を向けた。だが、「トランプ氏に任命された最高裁判事は言いなり」とか「トランプ氏が再選すれば独裁者」とかいう解説を新聞で読むと「分かってねーな」と感じるとも。 「トランプを死ぬほど嫌いな人がいるのに、死ぬほど好きな人がいる。米国を強くしているのはこの矛盾じゃないか」。そう語り終えた阿川さんから米国への冷徹な視線と深い愛を感じた。5日の大統領選は見届けたのだろうか。今聞いても、憲法の権力制御はトランプ氏の再登板でそうやすやすとは崩れない、と笑った気がする。(渡辺浩生「ポトマック通信」)