上野動物園も導入のアソビュー、「垂直統合戦略」でレジャー施設運営に意欲
11月25日発売のForbes JAPAN2025年1月号の特集「日本の起業家ランキング2025」で7位に選出されたのは、アソビューの山野智久だ。 粘り強さを武器に、悲願の大型公営施設への導入など、平時でも着実に成長。“いぶし銀スタートアップ”は、すでに10年先の未来を見据えている。 コロナ禍を通じた危機を経て、観光産業が急速に需要を回復している。アソビュー代表取締役の山野智久は、「平時に戻っても着実に事業を伸ばせています。泥くさく積み上げてきた成果が、雪だるまのように大きくなってきました」と胸を張る。 この1年間で、レジャー・体験の予約サービス「アソビュー!」の会員数は1.5倍の1500万人に。レジャー・観光・文化施設の業務DX支援SaaS「ウラカタ」シリーズの導入実績も約4000社に拡大した。さらに、悲願だった大型公営施設への導入も実現。恩賜上野動物園、東京国立博物館、広島平和記念資料館など、年間来場者数が数百万人の日本を代表する公営施設で、混雑解消などを目的に電子チケットサービス「ウラカタチケット」が立て続けに導入されたのだ。特に恩賜上野動物園への導入は粘り強いアプローチが花開いた成果だった。 「ひとりの営業担当者が熱意をもって4年間にわたりコミュニケーションを取り続けた結果、公募を経て採用してもらうことができました。実はその担当者は、途中で所属の部署が変わりながらも、諦めることなく取り組んできたんです。導入が決まったとき、社内は沸きましたね」 かたや、将来に向けた事業の種まきを進めた1年でもあった。ふるさと納税やクラウドファンディングのサービスをリリースしたほか、海外オプショナルツアーを手配可能なアウトバウンド向けサービスのローンチも予定している。いずれも中長期での業績への貢献を見据えた事業だ。 既存事業の堅実な成長、そして新事業の仕込みと、盤石な進捗に見える。しかしその裏で、山野は自身の経営スタイルを見直していた。平時に戻った今、「5年10年先の未来を想像してみると、会社の成長に対して、創業経営者ひとりでは的確な判断ができない」と思い至ったのだ。 「リーダーとして、特に有事だったこの数年間は、推進力を強く意識してきました。ところが組織の拡大によってすべての情報に目を通すことが難しくなってきた。多角化する事業と組織には、多様な観点から経営判断していきたい」 24年7月にアソビューは経営体制を変更。山野に加え、専務執行役員だった米山寛が代表執行役員COOに就任した。創業者によるトップダウン経営から、チーム主体での多様な意見を取り入れた経営への変革に着手している。 そして、今後の大きな挑戦として注力しようとしているのが、既存の事業基盤を生かしたビジネスの拡張だ。そのひとつが 「垂直統合戦略の推進」。「アソビュー!」というプラットフォーム上で、自社で開発したレジャー体験やテーマパークといったIP(知的財産)を展開していく構想だ。先行して24年夏は、人気漫画『宇宙兄弟』とコラボしたペットボトルロケット大会を開催し、親子をはじめ約800人が参加する盛況ぶりだった。 「ITを駆使した事業を手がけてきましたが、体験の提供や施設運営といったリアルビジネスは未知の領域。これまでと比べものにならない大規模な投資や人員、ケイパビリティを必要とします。そこに挑戦する覚悟はできていますし、わくわくしていますね」 創業から14年目を迎えた“いぶし銀スタートアップ”は、さらなる飛躍を見据え、大きな次の一手に打って出る。 山野智久◎リクルートを経て2011年にアソビュー創業。観光庁アドバイザリー・ボード、経済同友会観光再生戦略委員会委員長などを歴任。一般社団法人日本車いすラグビー連盟理事。著書に『弱者の戦術』(ダイヤモンド社)。 「Forbes JAPAN」2025年1月号では、「日本の起業家ランキング 2025」BEST10に選出された10組の起業家たちのインタビュー記事のほか、日本発の主要なスタートアップ起業家を網羅した新企画「日本の起業家名鑑400」、VC業界が注目する「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」、Forbes米国版が次なるユニコーン企業25社を選出した「NEXT BILLION-DOLLER STARTUPS」の最新版も掲載。スタートアップ・シーンの今と未来が見えてくる決定版として、内容盛りだくさんでお届けする。
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