社説:トランプ氏と世界 国際協調に背を向けるな
「米国第一主義」を声高に掲げ、国際協調や既存のルールの破壊をためらわない指導者の復権は世界に何をもたらすのか。 米大統領選で勝利したトランプ氏の返り咲きに、国際社会が身構えている。 最も影響が懸念されるのは、ロシアの侵攻が続くウクライナ情勢だ。トランプ氏は一貫してウクライナへの支援継続に消極的で、「就任前にも決着をつける」と停戦仲介に意欲を示す。 だがロシアが占領した領地の割譲を迫り、侵略を是認する形の「和平案」ならば、ウクライナの反発はもとより、西側諸国の結束にも亀裂が生じよう。 中東でも、パレスチナ自治区ガザへの攻撃を続けるイスラエル寄りの姿勢が際立っている。1期目の政権時に蜜月関係を築いたネタニヤフ首相を促して攻撃を止められたとしても、パレスチナ国家を樹立する「2国家共存」による解決には冷淡だ。根本的な和平は見通せない。 通商政策でも、高い関税の導入を掲げ、国際経済を翻弄(ほんろう)することになりそうだ。 全ての輸入品に10~20%の関税導入を訴え、覇権を競う中国には一律60%の関税を課すと明言している。国内産業を保護する名目だが、輸入品価格の上昇は米国内のインフレ悪化を招く。相手国が対抗措置をとれば、自由貿易は停滞しかねない。 トランプ氏が同盟国との連携や国際的な協調を軽視する傾向も不安の種だ。 1期目は、自由貿易を推進する環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を早々に決めた。温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」からも脱退した。 超大国である米国が多国間協調に背を向ければ、その影響は甚大だ。特に温暖化を背景に、異常気象は近年、危機レベルが上がっている。地球規模に及ぶ責任を自覚してもらいたい。 トランプ氏は、2国間のディール(取引)を好む。ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記らとも、直接渡り合って問題を解決するとの主張を繰り返す。だが自らの損得勘定に基づく取引で、権威主義体制を勢いづかせるリスクは拭えず、慎重であるべきだ。 内向き志向を強める米国といかに向き合うか。日本の外交戦略も練り直しが求められる。 保護関税による日本企業への影響をはじめ、通商や安全保障に関する多国間枠組みの変化も注視する必要がある。在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)でも増額の圧力が強まる恐れがある。 短期的に米国の利益になったとしても、世界秩序や友好国の信頼を損なえば、その弊害はいずれはね返ってくる。 日本は、中長期的な得失を訴えて、自由と民主主義、法の支配を守る国際協調の橋渡しに努めたい。