<オーストリア・メタルAGの経営戦略/ヘルムート・カウフマンCEOに聞く>JIS認定材、日本市場で拡販。商社・流通との協力関係模索
アジアパシフィックエリアの本社機能を台湾から日本に移したオーストリア・メタルAGは、日本の自動車や建築業界に向けて高品質アルミ材料を供給している。このほど来日したヘルムート・カウフマンCEOが鉄鋼新聞の取材に応じた。(遊佐 鉄平) ――CEO就任から10カ月。トップ就任の感触は。 「CEO就任は今年1月だが、17年前からボードメンバーとして経営に携わってきた。CEOに昇格しても大きくやり方を変えることはなく、これまでの戦略を継続していく」 ――足元の事業環境は。 「全体としては、欧州景気の減速を受けてアルミの消費は落ちている。その中で需要業界別で見ると、自動車業界はドイツなどでEV補助金が終了したため減速感が出ている。しかしさまざまな自動車メーカーの内燃機関車部品もEV部品も手掛ける我々は、ドイツのほか北米やアジア、日本などグローバル市場に向けて供給しているため非常に安定している。中でも自動車のアウターパネルは堅調に推移している。一方でブレージングシートはEV生産が計画を下回ったため、電池冷却部品向けが振るわなかった」 「航空機材も堅調だ。米国の航空機大手向けは減速感が出ているものの、欧州向けを中心に素材の出荷は継続している。包装材はオーストリア顧客との長期契約に基づき出荷は安定している」 ――今年の収益見通しは。 「2024年の調整後EBITDAは1億6千~8千万ユーロを見込んでおり、過去2番目の高水準だった昨年レベルを維持できると見ている。しかし欧州の景気動向を見ると来年は難しい年になるかもしれない」 ――欧州のアルミ業界でトピックとなっているテーマは。 「CO2排出の低減に向けた取り組みだろう。オーストリアではカーボンニュートラルを40年に達成するとしており、これはEUや米国、日本の目標よりも達成時期が早い。この目標に向けてリサイクル材の使用を高めた商品開発に取り組むため、すでに低CO2の新地金、鋳造合金、圧延品を提供している」 「エネルギー面では、水素の活用に取り組んでいる。すでに溶解鋳造工程では実機レベルで実証に入っている。今後、圧延工程にも対象を広げていく可能性はあるが、課題は水素調達のインフラ。実際の運用にはパイプラインの配備が不可欠となるが、これの整備は国家レベルの対応になる。今はできる部分で準備をしていく段階だろう」 ――低CO2製品の売れ行きは。 「CNのために低炭素素材を求める動きは一段と高まっている。リサイクル原料の含有率を高めたブランド製品〝AL4EVER(アル・フォー・エヴァー)〟は自動車や包装材、スポーツ分野で実績が増えている」 ――リサイクル原料の調達状況は。 「45年以上にわたりアルミリサイクルに力を入れてきたが、その過程で得た200社にも及ぶ原料調達ネットワークが生きている。またリサイクル技術の開発も欠かしておらず、自社のソーティング技術とシュレッダーラインの組み合わせでスクラップの利用比率をさらに高める努力をしている。また自動車工場などからスクラップを回収する水平リサイクルの取り組みも拡大している」 「しかし年々高まるリサイクル材ニーズを考えると、すべてのニーズを受け入れ切ることは困難だという現実的な考えも持たなければならない。顧客の要望の要望に対し、どの程度まで実現することがベストであるかを顧客とともに考えていくことも重要になる」 ――今回はアジア太平洋地区の営業会議のための来日ですが、改めて日本で取り組みたいことは。 「日本市場では自動車パネルや縞板、鉄道車両関係、建材、自転車材などを供給している。これらの販売を増やすことはもちろんだが、JIS認定を持つランスホーフェン工場の特徴を生かし、JISが必要とされるインフラ分野での販売を目指したい」 ――最近始まった取引などは。 「ファサードなどのビル建材用材料を日本のパートナー経由で販売するビジネスは、材料評価がほぼ完了して市場に提供する準備が整った。来年を目標にビルの内外装建材を販売したい」 ――そのほか日本市場開拓の一手は。 「日本の物流に乗せることが重要と考えており、そのために商社や流通との取引を増やしたい。我々が得意とする焼入材や光輝材は日本国内の供給が十分ではないケースがある。そういう場面で当社の材料が提供できると見ている」 「当社にとっての新製品〝クロスアロイ〟が日本で受け入れられることも願っている。これは成分が5000系と7000系の中間にある新合金。7000系の強度と5000系の成形性を併せ持ち、溶接性がよく腐食に強い特徴を持つ。また最大の利点は成分的に再利用が難しい7000系スクラップを効率よくリサイクルできるようになることだ。すでに欧州では顧客の評価段階にあり、将来は日本でも提案したい」