上半期のBEV販売は約10%増でHEVは約70%増!! それでも全体で20%もマイナスとなったタイで何が起こっているのか?
ローンの審査の厳格化により審査に落ちる人が続出!?
前出の事情通はいくつかの要因を話してくれた。「まずはタイでも日本ほどではないのですが『少子高齢化』が進んでおります。社会構造の変化が進むなか、そもそもタイにおける新車需要拡大も限界に近づいていることがあります。2番目はオートローン審査が厳格化されていることがあげられます。これは統計を見るとタイ国内での新車販売で販売比率の高いピックアップトラックの販売台数減少があります。とくにピックアップトラックの販売比率の高い、フォードやいすゞの落ち込みが激しいことはそれを表しているでしょう」。 事情通はピックアップトラックでユーザー層の多い所得の低い地方の第一次産業従事者がローンの厳格化で新車購入が困難になってきているとも話してくれた。タイ国内ではここのところ北部地域で洪水被害が深刻となっている。今後は生活再建へ向け復興が進むことになるが、この洪水被害がさらに現状悪化を招いているようなのだが(ローンの支払い継続が困難になり支払いの滞りが目立って増えている)、事情通は復興が進むなかで現状緩和が進んで行くのではないかと語ってくれた。 余談だが深刻なここのところの洪水被害を受け、あくまで感覚的なもののようなのであるが、「我われの国(タイ)は道路冠水程度なものも含めて水害も多いので、やはりBEVは無理なんじゃないかという認識がなんとなくタイ国内で広がっているように感じている」と事情通は話してくれた。 もちろんローン審査の厳格化は都市部在住の所得がそれほど高くない人たちの新車販売へも影響を及ぼしている。「ピックアップトラックのほか、低価格の小型車の販売減少も著しい」(事情通)ということからも明らかともいえよう。 ローン審査の厳格化が行われても、中国メーカーの得意とするクラスのBEVや日系HEVの価格はおおよそ円換算で450万円前後となっているので、この価格帯の新車購入ができる中産階級以上の層についてはローン審査の厳格化は直撃していないようにも見える。またHEVが前年比70%近いプラスになっていることを見ると、タイ消費者の「BEVからHEVへ」という需要の変化というものも起きているのではないかと考えられる。 それでは、中国メーカー以外の日系メーカーなどが販売の振るわないピックアップトラックや小型車について、中国系BEVのように極端な値下げなどのインセンティブ供与で乱売しているのかというと、「そもそも主要購買層(第一産業従事者や都市部の所得があまり高くない層など)についてはそれらのひとたちの経済状況では、審査の厳格化もありローンを組めないという前提がありますので、インセンティブを強化しても販売促進効果は期待できません」(事情通)とのことであった。 新車購入に際してはローンを組むのが当たり前のタイでは、購入車種選定においては「再販価値」が重視されるので、それを高止まりで維持させないとリピートは期待できない。「再販価値維持のためにも一時的とはいえ、極端な乱売はできないのです」(事情通)。 タイは「アジアのデトロイト」とも表現されるほど、東南アジアにおける主要な新車生産拠点であり、周辺国だけではなく欧州など海外にも出荷している。ただタイの通貨バーツの強い状況が続き、人件費高騰など諸問題が顕在化してきており、タイにおける自動車産業全体が揺らいできているように見えるとも事情通は語ってくれた。 タイにおいては中国メーカー製BEV販売が行き詰まりを見せ、その余波をICE車販売が被っているというわけではなく、タイの新車販売市場が抱える別の諸問題の影響のほうが大きいようである。つまりタイにおける日本車の新車販売は中国メーカー製BEVの動きに大きく振りまわされているということはないと事情通は話しを締めてくれた。
小林敦志