1世紀超の時経ても店舗の名残伝える旧第五十九銀行本店本館、ルネサンス調建築の魅力も 味・旅・遊
青森県弘前市に数多く残る明治時代の洋風建築の中でもひときわ目を引くのが旧第五十九銀行本店本館(青森銀行記念館)だ。ルネサンス風建築で左右対称(シンメトリー)にバランス良く建てられ、随所に独創的な工夫、装飾が施されている。設計、施工は明治期の弘前を代表する棟梁(とうりょう)として名をはせた堀江佐吉(1845~1907年)。堀江が手掛けた数々の優品の中で最も心血を注いだとされる、城下町を代表する建物の魅力に触れた。 木造2階建ての外壁に張られた瓦の上をしっくいで仕上げ、独特の風合いと重厚さを演出。窓は防音、防火対策として土としっくいで固めた引き戸を取り付ける和風技法を取り入れている。桜の名所で知られる弘前公園に程近い場所にあり、その威風堂々としたたたずまいに思わず目を奪われる。 柱や階段、建具には青森県産のヒバやケヤキをふんだんに使用。同行した弘前市教育委員会文化財課の小石川透課長補佐によると、堀江自ら山に行って材木を吟味したというから、いかに力を入れていたかが分かる。 ■グレード高い空間 モダンな雰囲気を醸し出し、高揚感に包まれる中、正面玄関に入るとかつての営業室が広がる。天井が高く、窓口として使われていたカウンターが残り、店舗としての名残がひしひしと伝わり、当時の出入金の様子をしのぶことができる。 装飾にも堀江のこだわりを感じることができる。 1階の頭取室と2階の会議室・小会議室の天井の壁紙にはアカンサス(ハアザミ)の葉をモチーフにした金唐革紙(きんからかわかみ)が施されている。もともとは欧州などで皮革を素材にしたものが日本では紙を使って作成するようになったといわれる高級壁紙だ。明治から昭和初期にかけて多くの建物で使われたが、今では旧日本郵船小樽支店(北海道小樽市)や旧岩崎家住宅(東京都台東区)などでしか見ることができず、ぜいの限りを尽くした施しに洋風建築の第一人者としての強い思い入れが伝わってくる。 小石川さんは「特に2階の会議室はグレードの高い空間で、堀江が一番こだわった部分だと思う。ここに通される人はそれなりにステータスのある人だったのでないか」と推察する。