【解説】米大統領選の争点 性暴力を受けても中絶できず…脅かされる「人工妊娠中絶の権利」
日テレNEWS NNN
アメリカではいま中絶を「禁止」する州が急増し、中には性暴力による妊娠であっても中絶を許可しない州もある。こうした状況に「女性の権利を奪っている」と規制に反発する声が高まり、大統領選挙での大きな争点となっている。厳格な規制が拡大した背景とその問題点とは。<国際部 福井桜子> 【動くグラフ】米大統領選挙2024 ハリスVSトランプ 支持率の推移
■増加する中絶「禁止州」
おととし、アメリカで人工妊娠中絶の権利を保障してきた最高裁判決が覆されて以降、きょうまでに22の州が中絶に厳格な規制をかけている。 14の州では母体の生命が危険な場合などの特例を除き、どの妊娠週であっても中絶が「全面的に禁止」とされていて、このうち9つの州ではレイプや近親相姦による妊娠でも中絶を許可していない。
■レイプされても中絶できず
こうした規制により、去年「禁止州」の一つであるミシシッピ州に住む13歳の少女が、レイプによる妊娠の結果、出産するというケースがあった。 ミシシッピ州では、レイプによる中絶は例外として認められているものの、「中絶禁止」となって以降、州内で中絶手術ができる病院がなくなってしまったのだ。 周りを「禁止州」で囲まれたミシシッピ州から最も近い病院は、車で片道9時間も離れたイリノイ州の病院で、少女は交通費などを工面できず、中絶を諦めて出産せざるをえなかったという。
今年1月に発表された調査報告書によると、14の州では「中絶禁止」となって以降、レイプに関連した妊娠が約6万5000件あったと推定される一方、それらの州内で行われた中絶は月平均10件以下だった。 つまり、レイプにより望まない妊娠をした女性の多くが、自分が住む州で中絶手術を受けることができていないのだ。
■州またぐ中絶を余儀なくされる女性たち
「禁止州」に住みながら中絶するには、中絶薬を使うという方法もあるが、見つかると罰せられるリスクがある。そのため、中絶が認められている州まで行き、手術を受けるほかないと考える女性が少なくない。 「禁止州」の一つであるテネシー州在住で、州をまたいだ中絶を余儀なくされたアリーさんを取材した。 アリーさんは去年、妊娠19週のときに胎児の臓器が正しく形成されず生存できる可能性が低いと診断された。 そこで医師から提案されたのが、母体を危険にさらしながら妊娠を継続するか、中絶するかの2択だった。ただ同時に、テネシー州は「禁止州」のため「ここでは中絶できない」と言われたという。 アリーさんはこの時のことを「州の外でどうやって手術を受けられるかもわからず、とても怖く絶望した」と振り返っていた。