【公演レポート】童話の世界がそのまま舞台に、美しく切ないKバレエ新作「マーメイド」上演中
「K-BALLET TOKYO Autumn Tour 2024『マーメイド』」が、去る9月8日に東京・東京文化会館 大ホールで開幕し、現在ツアー中だ。ここでは昨日13日に大阪・フェスティバルホールで行われた公演の様子をレポートする。 【画像】「K-BALLET TOKYO Autumn Tour 2024『マーメイド』」東京公演より。(c)Yoshitomo Okuda(他9件) 「マーメイド」は、25周年を迎えたK-BALLET TOKYOが制作する新作バレエ。ハンス・クリスチャン・アンデルセンの「人魚姫」をもとに、熊川哲也が演出・振付・台本・音楽構成を手がける。9月13日18:30開演回は、マーメイド役を飯島望未、プリンス役を山本雅也、プリンセス役を日高世菜、物語のキーパーソンとなるシャーク役を石橋奨也が演じた。 本公演について熊川は「設立25周年を記念する新作としてアンデルセンの名作童話を題材に選んだ背景には、ひとりでも多くの子供たちがバレエを見に劇場へ足を運ぶきっかけとなり、バレエの世界に憧れを抱くような作品を、という想いがあります」とパンフレットで語っているが、果たしてその思いがかなって、開演前の客席には、おめかしした子供たちの姿が多く見られた。 オーケストラの雄大な演奏と共に、幕が上がる。舞台のスクリーンには空にも水面にも感じられる映像が映し出され、そこに「Mermaid」の文字が浮かび上がった。映像が消えると、そこは海近くの酒場。酒場の男女や水兵たちが、陽気で軽快なダンスを繰り広げる。そのかたわらで、物乞いは人々の間をすり抜けながら盗みを繰り返していた。 とそこへ、身なりのいい青年3人が登場。実は彼らはプリンスとその友人たちで、お忍びで酒場へやって来たのだ。酒場の人々とすぐに打ち解けた青年たちは、息ぴったりに力強く大胆な踊りを披露。そのとき王が現れて、プリンスに誕生祝いの短剣を与えつつ、航海に出るようにと命じる。山本演じるプリンスは、まったく恐れることなく、待ってましたとばかりに、希望に満ちた表情で海へと繰り出すのだった。 続く海のシーンでは、イルカやトビウオ、クマノミたちが登場。アンゲリーナ・アトラギッチが手がける衣裳は、ダンサーが動くたびにゆらゆらと表情を変え、まさに海中にいるかのような印象を与える。また動きの中にも時折、水を掻くような仕草がちりばめられていて実にユニークだ。そんな海の生き物たちと楽しげに泳ぐマーメイドだが、船の甲板に現れたプリンスを見て一目惚れ。しかしシャークが起こした嵐で船は難破してしまい、マーメイドは必死にプリンスを助けるのだった。嵐のシーンでは、波を模した大きな布を使い、ダンサーたちが大波を表現。舞台ならではの見せ方が、絵本の世界観にマッチしているように感じられた。 そうしてなんとかプリンスを救い出したものの、海中に戻っても彼を忘れることができないマーメイド。飯島は、好奇心旺盛で真っ直ぐなマーメイドの様子を、細やかな仕草と表情で表現する。やがてシャークの力を借りて、声を失う代わりに脚を得て地上で暮らすことを決意したマーメイドだが、プリンスは自分を助けてくれた人がマーメイドだと気付かず、別の女性を恩人だと勘違いしてしまう。 飯島は、地上に上がったマーメイドが脚の使い方を知り、自由に歩き回るようになるまでを、短い時間ながら印象的に演じる。その様子には、現実的に“自分の足で立つ”という意味合いだけでなく、マーメイドが自分の意志で生きる場所を決め、独力で歩き始めようとする思いが重なって感じられた。その後、プリンスに再会したマーメイドは、持ち前の好奇心と恋心から、子供のような無邪気さでプリンスに近づいていく。その愛らしい様子に、客席からクスッと笑い声が起きるほどで、飯島はマーメイドを魅力的で愛すべき人物として描き出した。 一方、宮廷ではプリンスとプリンセスの婚約式の準備が進められていた。海の前に広がるキャンドル煌く大広間で、淡いブルーグレーの衣裳に身を包んだダンサーたちが、軽やかにダンスを披露する。そこにプリンスとプリンセスも姿を現し、ロマンチックな踊りを披露。山本は若さと自信に満ちたプリンスの様子をキレのある動きで見せ、日高はプリンセスの幸福感を、優雅さと伸びやかさで表現した。 大広間の盛り上がりとは裏腹に、海近くの洞で涙に暮れるマーメイド。飯島は淡い水色のドレスの裾を寂しげにひらめかせながら、マーメイドの嘆きを切々と表現する。彼女が動くたび、その影が背後の岩に大きく長く写り、彼女の内にある苦しみの大きさを表すようだった。そんなマーメイドを心配して海中から姿を現したマーメイドの叔母は、プリンスの返り血を浴びればマーメイドに戻れると、彼女に剣を渡す。思い悩んだ末にマーメイドが出した決断とは……。ラストシーンは非常に美しい演出が施されているので、ぜひ楽しみにしておこう。 なお入場時に配られたチラシ束の中に「『マーメイド』バレエマイム解説」のシートが入っているので、観劇の際ぜひ参考にしてみては。公演はこのあと、9月18日に北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru、21日から10月6日まで東京・Bunkamura オーチャードホールにて行われる。 ■ K-BALLET TOKYO Autumn Tour 2024「マーメイド」 2024年9月8日(日) ※公演終了 東京都 東京文化会館 大ホール 2024年9月10日(火) ※公演終了 愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール 2024年9月13日(金) ※公演終了 大阪府 フェスティバルホール 2024年9月18日(水) 北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru 2024年9月21日(土)~23日(月・振休)、28日(土)・29日(日)、10月4日(金)~6日(日) 東京都 Bunkamura オーチャードホール □ スタッフ 原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン 演出・振付・台本・音楽構成:熊川哲也 音楽:アレクサンドル・グラズノフ □ 出演 マーメイド:飯島望未 / 小林美奈 / 岩井優花 プリンス:山本雅也 / 堀内將平 / 栗山廉 プリンセス:日高世菜 / 成田紗弥 / 長尾美音 シャーク:石橋奨也 / 杉野慧 / 田中大智 ※日高世菜の「高」ははしご高が正式表記。