フリークライミングで障害者と健常者の“壁”乗り越える
あらゆる“壁”が消えてゆく
全盲の指圧マッサージ師、志賀信明さんは、昨年11月のスクール参加をきっかけにクライミングに目覚めた。「腕力には自信があったけれど、自分より登れる人が多かった。いや、自分が一番登れなかった。以来、本来の負けず嫌いの虫が騒ぎ出したようです」。その後、毎週のように壁に挑むようになり、今では『マンデーマジック』の常連だ。妻の道子さんとアイメイト(盲導犬)のトリトンと3人揃ってジムに通う。 「ゴールできた時の達成感が最大の魅力。しかも、このスポーツは健常者も障害者も同じ土俵で同じ目標に向かい、楽しむことができる。何よりも素晴らしい点は、下から仲間たちが一生懸命に声でサポートしてくれることだと思います」。何かをやり遂げるためにお互いにサポートする。それが、障害者が欲する福祉の本来の姿だと志賀さんは言う。
妻の道子さんは弱視だ。しばらくは夫に誘われるまま、なんとなく付き添いで来ていた。「最初は、壁に登って高いところまで?危険!疲れるだけ!やる人の気持ちが分からない!と私は否定的でした」と笑う。それが小林代表に「年齢も体重も関係ありません。ボーッと見ているなら、やった方が楽しいですよ」と勧められ、重い腰を上げて挑戦。実際にやってみると不安は消し飛んだ。 「励まし合い、サポートしたりされたりが自然にできるようになる。あらゆる“壁”が消えていく感覚があります。この活動に感動しています」。道子さんは今、誰よりも大きな声を出してクライミングを楽しんでいる。
世代や国境も越えて
こうした感覚は健常者にも共通しているようだ。もともと障害者福祉とクライミングの両方に興味があり、昨年9月から『マンデーマジック』に参加するようになった30代の会社員女性は次のように話す。 「これまでは障害者の方と実際に接する機会はありませんでした。ここに来て分かったのは、障害のあるなしに関係なく、普通にみんなで楽しむことができるということ。最近は『自分がもし見えなくなっても、比較的ショックが少なくて済むのでは』なんて考えることもあるんです」 今回は海外からの参加もあった。社会福祉の研究のために来日中の香港の女子大生3人が「モンキーマジック」のHPを探し当て、参加を申し込んだのだ。そのうちの一人が、壁を登りきり息を弾ませながら言った。「香港にも視覚障害者のクライミングはありますが、日本のNPOはどうするのか興味があり、参加しました。このように目が見える人と視覚障害者が同じことをやっている光景はあまり見たことがない。とてもクールですね!」 小林代表は言う。「クライミングを通じて障害者を特別な存在と感じない人が一人でも増えていったら嬉しく思います。クライミングは体の状況に関係なく楽しめるスポーツです。参加者には子供もいますし、70代、80代の方にも来ていただいているんですよ」。 (内村コースケ/フォトジャーナリスト)