伊藤蘭「キャンディーズ時代苦手だった歌に、50周年で再び向き合って。夫・水谷豊も〈蘭さんは、蘭さんのペースで〉と背中を押してくれた」
5年前にソロ歌手として再デビューし、この1年は、全国6都市のコンサートツアーに、初エッセイ本の出版にとチャレンジの連続だった伊藤蘭さん。「勇気を出して流れに飛びこめば運は開けていく」と語ります(構成=内山靖子 撮影=玉置順子(t-cube)) 【写真】蘭さんにそっくり!コンサートでの差し入れケーキの上に… * * * * * * * ◆全力で取り組んだ《今》を積み重ねて おかげさまで、2023年にデビュー50周年を迎えました。あらためて考えると、50年って長いですよねぇ。私がデビューした年に生まれた人が50歳になったわけでしょう(笑)。そう思うと、よくここまでたどり着けたなと思います。もちろん、私ひとりの力じゃありません。それはひしひしと感じています。 もともと、私はあまり先のことを考えるタイプではないんです。「5年後、10年後にこうなりたい」と、遠い未来を見据えた目標を掲げたこともなく、「この仕事を何がなんでも続けてやる!」と思ったこともありません。何事も、自然の流れに任せていると言いますか。 ただ、今の自分に与えられたこと、やらねばならないことには常に全力。そして、一度取り組んだことは最後までまっとうしようと心がけてきました。そんな《今》が積み重なった結果が50周年になったのだと思います。 昨年は、50周年記念として全国6都市を回るコンサートツアーも行いました。そんな貴重な経験ができたのも、5年前に歌手活動を再開したおかげです。 実は、キャンディーズ時代の私は、歌に対してちょっぴり苦手意識がありました。もっと真摯に向き合えばよかったと、芸能活動を再開してからも、歌に対する心残りがずっとどこかにあり……。でも、30代、40代はドラマやお芝居の仕事と子育てで精いっぱい。歌のことまで考える余裕がなかったんです。
ところが、5年前、スタッフの方から「もう一度歌ってみませんか?」と声をかけていただきました。そうだ、今やっておかないと、年齢的にもこれがラストチャンスかもしれない。そう考えて、再び歌と向き合うことにしたのです。 とはいえ、歌手として活動するのは41年ぶり。しかも今回はスー(田中好子)さんもミキ(藤村美樹)さんもいない、ソロでの活動です。実際歌ってみると、「このままじゃダメだ」と思い知らされました。 ボイストレーニングにも通いましたが、いくら頑張っても追いつかず、いまだに冷や汗の連続です。でも、私が楽しまないと、聴いてくださるみなさんも楽しめないと思うので、自分をあまり追い詰めないようにしています。 19年に初めてソロコンサートを開催した時は、今の私をお客様が受け入れてくれるのだろうかと不安でした。そして、キャンディーズ時代の曲を歌うことにしても、私がひとりで歌って楽しんでもらえるのかしら、というためらいがあったのです。 でも、回を重ねるごとに、お客様が喜んでくださっている様子がひしひしと伝わってきて、本当に嬉しかった。 21年のコンサートツアー最終日には、キャンディーズが解散宣言をした日比谷野外大音楽堂のステージに立ちました。その時、野音の神様に「おかえり」って言っていただけた気がしたんです。解散当時は、まさかもう一度ここに戻ってこられるとは思ってもいませんでした。それだけに、このステージに立てた喜びは計り知れないものがあったのです。 おまけに、『紅白歌合戦』にも出場させていただくなんて。そんなこと1ミリも考えていなかったのに、こんな奇跡のようなことが現実に起きるのですね。 お芝居があり、家庭があり、そこに新たに歌が加わったことで、自分の世界が確実に広がっている。《心残り》をどこまで解消できるかわかりませんが、チャレンジして本当に良かったと思っています。