【秋の夜長に見たいアートな映画】アルカトラズ島で開催されたアイ・ウェイウェイの個展に迫る
人生に迷いはつきものだが、偉業を成し遂げた芸術家たちの葛藤や、何を人生の指針にして創作活動をしていたのかということから学べることもあるはず。今回は、世界的現代美術家アイ・ウェイウェイの活動を追ったドキュメンタリー映画を紹介。 【写真】アートな映画3選
中国を代表する現代美術家であるアイ・ウェイウェイは、自身の政治的発言により2011年4月に北京空港で身柄を拘束される。同年6月に釈放されるも、パスポートを剥奪され中国から出ることができず半ば軟禁されたような状態に。そんな時に企画された個展が「@Large」で、本作はその「@Large」開催を追ったドキュメンタリーだ。
「@Large」は、かつて刑務所として使われ、今では国立公園となったサンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズ島で開催された。今でも刑務所施設は残っており、毎日多くの人が見学に訪れる観光名所だ。 本展の主題は“自由”だとアイ・ウェイウェイは語る。詩人であったアイ・ウェイウェイの父が政治的発言により僻地へ追いやられ、20年間トイレ掃除をして暮らしたことをモチーフに独房のトイレを陶器の花で埋め尽くした《BLOSSUM》や、チベットでは太陽光が強いため金属板の反射光でお湯を沸かすそうだが、その金属板を鳥の羽と見立て、自由のメタファーとして翼を表現し、檻の中に配した《REFRACTION》など、“自由”をテーマにした多様な作品が展示される。 なかでも、人権や言論の自由を訴えたり、政府の不正を告発したりしたことで、不当に刑務所に収監された活動家や政治犯176人の肖像を、カラフルなレゴブロックを使い表現した《TRACE》が本展のメイン作品だ。会場には肖像とともに各活動家宛のポストカードが用意されており、展覧会を訪れた人たちは、彼らに直接手紙を書き、支援の声を届けることができるのだ。ある活動家の元には毎週何百通もの手紙が届き「私は忘れられていなかった」と涙を流したという。 自由を奪われたアイ・ウェイウェイや、世界各国にいる不当逮捕されたアクティビストたちの現状を、アルカトラズという特別な場所が生々しく描き出す。日本語訳の拙さが少々気になるものの、言葉を介さなくとも伝わるアートの力を感じることができるとも言えるだろう。声を上げてきた人々を忘れないこと、彼らの活動を知ることこそが、自由へと近づく大切な一歩だと気づかせてくれる。
『アイ・ウェイウェイ:ユア・トゥルーリー』 Amason Prime Videoでデジタル配信中 ※配信状況は2023年10月25日現在のものです。 BY KANA ENDO