患者は声を荒らげ飛び出した マイナ保険証が読み取れない…業務滞り悩む医療機関 導入義務化、廃業の呼び水にも
■歯科医院の窓口、画面には「資格情報なし」
今年4月、駒ケ根市赤穂の「とうせい(東正)歯科医院」。来院した地元の男性患者が、窓口の顔認証付きカードリーダー(読み取り機)に、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」を置いた。だが画面には資格情報なし―との文字が表示され、読み取れない。 マイナ保険証取得、ポイント目当てだった?【これまでの経過表付き】
保険診療には、患者がどの公的医療保険に加入しているか、資格確認が必要だ。窓口の事務スタッフが現行の健康保険証の提示を求めると、男性は別の病院では読み取りができたと説明。手元のマイナ保険証を指さし、「これが(私の)保険証だ」と声を荒らげ、飛び出していった。
「どう対応すれば良かったのか」。池上正資(まさすけ)院長(65)は、今でも時折考え込んでしまう。カードリーダーの不具合か、システムの故障か、原因は判然としない。「誰も悪くないのに、なぜこんな思いをしないといけないのか」
1987年に開院し、平日は40人ほどが受診する。約46万円のカードリーダーは昨年4月に購入。国の補助金で自己負担は3万円程度だったが、導入のために院内のシステムを入れ替える必要があり、パソコン4台や新規ソフトなど計約480万円を投じた。
診察や事務は池上院長を含め4、5人で担当するが、オンラインの資格確認でトラブルが起きれば、そのたびに窓口業務は滞る。顔認証が反応しなかったり、保険資格が誤っていたり、ここ最近までトラブルは9件発生。その都度、関係省庁に問い合わせるなどしたが、「たらい回しにされただけ」で、明確な対処法にはたどり着けなかった。
トラブルは全国で相次ぐ。厚生労働省によると、マイナ保険証の本格運用が始まった2021年10月以降、別人の情報がひも付けられたケースを8544件確認。うち20件は、実際に薬の処方歴といった医療情報が閲覧された。全国保険医団体連合会の調査では、医療費の窓口負担割合が誤って表示された事例が、長野を含む39都道府県の978医療機関で確認されている。