治安維持の歴史とともに歩む「歌」 今も高らかに 警視庁150年
「この世を花にするために」は山下さんにとっても難しい曲だ。「歌いだしが低いんですね。10日以上前からボイストレーニングをします」
「この道」はかつて、警視庁警察官の結婚式で同僚が新郎新婦を囲み、歌うならわしがあった。今ではそれを知らない警察官も増えたといい、暴力の時代の終わりによって警察官と歌との距離も変わったのかもしれない。
■分列行進曲
警視庁にとって最初の〝大事件〟は西南戦争だった。西郷隆盛ら反乱軍に対し、警視庁は鎮圧のため1万人近くを派遣。分水嶺となった田原坂の戦いを歌ったのが《我は官軍、我が敵は…》の歌詞で知られる「抜刀隊」だ。
現在まで警視庁の観閲式で行進曲として使われている「分列行進曲」は、明治17~22年にフランスから派遣され、陸軍軍楽隊を指導していた音楽家、シャルル・ルルーが抜刀隊などをもとに編曲。山下さんは「都民へ、首都はわれわれが守るから安心してもらいたいという気持ちを込めて演奏する」と、先人と思いを重ねた。
観閲式での演奏は厳しく、金管楽器は寒い中では音が出にくくなるため細心の注意が必要で、「スタミナ配分も難しい」と山下さん。むらなく勇壮なリズムを奏でるために練習を重ねる。
それぞれの曲に警察官たちの成功と苦闘の歴史が刻まれている。曲を聴くと自分たちが前向きに仕事することができると、山下さん。「警視庁は都民国民とともにあるという思いで演奏し、歌っていきたい」と力強く語った。