世界中で記録的ロケットスタートの『デッドプール』新作 日本での興行を考察
7月第4週の動員ランキングは、『怪盗グルーのミニオン超変身』が週末3日間で動員38万8000人、興収5億800万円を記録して、先週の本連載で予測した通り『キングダム 大将軍の帰還』を抜いて公開2週目で初めてトップに立った。一方、『キングダム 大将軍の帰還』の週末3日間の動員は36万4000人、興収5億6100万円。公開2週目の『怪盗グルーのミニオン超変身』と公開3週目の『キングダム 大将軍の帰還』がほぼ同水準での争いを繰り広げていることから、今のところ週末の興行では『キングダム 大将軍の帰還』の方が持続力があると言えそうだ。 【写真】『デッドプール&ウルヴァリン』場面カット(複数あり) 日本から遅れること2日、7月26日に北米で公開されて、公開初日にR指定作品として歴代1位、MCU作品として『アベンジャーズ/エンドゲーム』、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』に次いで歴代4位(オープニング3日間では歴代5位)、そして全作品を含めても歴代6位(同歴代8位)という記録を打ち立てた『デッドプール&ウルヴァリン』は、日本での初週成績は3位ととどまった。もっとも、水曜日公開というイレギュラーな公開だったので、もし金曜日公開だったら僅差で1位になる可能性も十分にあっただろう。週末3日間の動員は29万7700人、興収は5億1300万円。初日から5日間の動員は49万1300人、興収は8億800万円。この成績は最終興収20億4000万円を記録した『デッドプール』(2016年)、最終興収18億円を記録した『デッドプール2』(2018年)を上回るもので、どんなに初動型であったとしても、今回も興収20億円前後の最終興収は見込めるだろう。 『デッドプール&ウルヴァリン』は北米だけでなく中国を含む世界各国で記録的なオープニング成績をあげていて、今年公開された作品では最も早いペースで興収5億ドルを超えている。その中にあって、日本での興行は今ひとつ爆発力に欠けているわけだが、それも含めてコロナ禍直前のスーパーヒーロー映画の興行では見慣れた構図。全世界のマーケットでは2021年(日本公開は2022年)の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』をほとんど唯一の例外として、コロナ禍以降それ以前の勢いを失ってきたスーパーヒーロー映画にあって、『デッドプール&ウルヴァリン』は世界的に失われつつあったマーベル映画への熱狂を取り戻すことに成功した。 しかし、既に作品を観た人ならばご承知の通り、過去の20世紀フォックスのマーベル作品のオマージュやレファレンスに満ちた本作は、マーベル・シネマティック・ユニバースにおいては本筋にある作品ではない。『デッドプール&ウルヴァリン』の成功は、未来に繋がるものというより、過去の遺産によるものと言えるだろう。『デッドプール&ウルヴァリン』公開直後に発表された『アベンジャーズ』新作へのルッソ兄弟&ロバート・ダウニー・Jr.の復活というビッグニュースへの大きなリアクションからもわかるように、マーベル・シネマティック・ユニバース全体もまた、過去の遺産を最大限活用する段階に入った。その遺産がいかに巨大なものであるかを、今回の『デッドプール&ウルヴァリン』の成功はいち早く証明してみせたわけだ。
宇野維正