「自分の書き方確立」 芥川賞候補、郡山市出身の鈴木結生さん
第172回芥川賞の候補に小説「ゲーテはすべてを言った」が選ばれた福島県郡山市出身の鈴木結生(ゆうい)さん(23)=福岡市=が7日、福島民友新聞社などの取材に応じ「(候補入りの)連絡を受けた時は本当に驚いた。本作は自分の書き方のようなものを確立できた大切な作品で、評価されたことへの安心感が大きい」と思いを語った。 鈴木さんは郡山市で東日本大震災を経験し、父親の仕事の都合で小学6年の途中で福岡市に転居した。「引っ越しでホームシック気味になっていた」という当時、郡山のことを思い出しながら書いたのが、今の創作活動の原点だと話す。 現在は西南学院大(福岡市)の大学院で英文学を研究している。今回の候補作は、ドイツの文豪ゲーテの研究者である主人公が、出典不明のゲーテの言葉の原典を探る物語だ。 鈴木さんの実家は教会で海外文学に触れる機会が多く、中学生で「ファウスト」を読んでゲーテに興味を持つようになった。大学でもゲーテに関する論文を書いた鈴木さんにとって、ゲーテは「作家になる上で避けては通れない存在とも感じている」と明かす。候補作のタイトルにした「ゲーテはすべてを言った」は「ゲーテの関連本などでよく目にする言葉だが、その出典は分からない」といい、その「出典の不明瞭さ」が本作のテーマの一つにもなっているという。 主人公の出身地は会津の設定。「福島は自分の原風景であり、震災の経験も含めて特別な場所。いつか福島をメインにした小説を書きたい」と今後の執筆に向けた展望を語った。 第172回芥川賞の選考会は15日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれる。同日に「ゲーテはすべてを言った」の単行本が刊行される。
福島民友新聞