トランプ政権の外交政策に変化? さまざまな憶測呼ぶ米国のシリア攻撃
今回のシリア攻撃は憲法に違反するとの指摘も
今回のミサイル攻撃では、アメリカの国会議員の中にもテレビのニュース速報で攻撃について初めて知った者が少なくなかった。議会承認を行わないまま実施に向けて踏み切ったミサイル攻撃について、共和党のランド・ポール上院議員は「アメリカが攻撃されているわけでもない状態で、大統領は合衆国憲法で求められているように、他国への軍事攻撃を行う際には議会の承認を得る必要があった」と批判している。同じく共和党のマイク・リー上院議員も、「もしアメリカが今後もシリアにおける軍事行動をエスカレートさせるのであれば、合衆国憲法を順守し、連邦議会からきちんとした承認を得るべきである」と指摘している。 アメリカ大統領は、米軍の最高司令官という肩書を持つことはよく知られている。過去には議会の権限として、戦争開始前に相手国に対して「宣戦布告」が行われていたが、第二次世界大戦を最後に宣戦布告という形は取られなくなってしまった。軍事力の行使という点で大統領に権力が集中する構造を懸念した米議会は、1973年に上下両院の3分の2以上が賛成して「戦争制限法」を成立させた。この法律では、軍事行動を起こす前に議会への説明と議会からの承認、軍事行動開始後にも議会へ説明を行うことなどが義務化された。 戦争制限法では全ての軍事行動に議会承認が必要なわけではなく、60日以内の戦闘であれば大統領の権限でアクションを起こすことが可能だ。つまり、議会承認なしの軍事行動のリミットは60日で、それに加えて30日以内に撤退することが求められている。60日を過ぎた軍事行動が憲法違反になるとの指摘は過去にもあり、2011年にオバマ政権は議会承認なしでリビアに軍事介入を開始したが、後に当時のクリントン国務長官は議会で釈明に追われている。 シリアに対するミサイル攻撃は「オバマ時代とは違い、必要な場合は軍事行動も辞さない」というトランプ政権の意思を国内外に明確に示した。 トランプ政権では大統領補佐官(安全保障担当)のマイケル・フリン氏が2月にロシアとの不適切な関係を問われて辞任。また5日には、トランプ政権のキーパーソンと考えられていたスティーブン・バノン主席戦略官が、国家安全保障会議の常任メンバーから外された。 1月に国家安全保障会議のメンバー編成が行われた際、歴代政権で常任メンバーであった統合参謀本部議長と情報長官が除外され、右派ニュースサイトの会長であったバノン氏がメンバー入りしたことが大きな話題となった。バノン氏はシリアを含む中東地域へのアメリカの関与に消極的なことで知られており、中東政策に積極的に関与すべきとの姿勢を示しているジャレッド・クシュナー上級顧問(トランプ大統領の娘婿)との対立が発生していたとの情報もある。バノン氏が外れ、かわりに統合参謀本部議長らが国家安全保障会議に常任メンバーとして戻ってきた。これらの「人事シャッフル」も、シリア攻撃に少なからず影響しているのだろうか。
--------------------------------- ■仲野博文(なかの・ひろふみ) ジャーナリスト。1975年生まれ。アメリカの大学院でジャーナリズムを学んでいた2001年に同時多発テロを経験し、卒業後そのまま現地で報道の仕事に就く。10年近い海外滞在経験を活かして、欧米を中心とする海外ニュースの取材や解説を行う。ウェブサイト