カブスの上原浩治が示すアスリートの正しいブログの使い方
まずは、「上原投手が振り返りブログを登板した直後や、帰宅して寝るまでの間に書くなど、その日のうちに書いているということが前提」と断った上で、「コンディションニングのためではないか」と推測する。 「上原投手はセットアッパーやときにクローザーとして登板するリリーフ投手です。試合があればブルペンに入るため、先発投手よりも登板間隔はもちろん狭くなりますし、連戦もあるため、シーズンを戦い抜くには日々の(翌日までの)休養の取り方が極めて重要になると思われます。しかし、良い時もあれば悪い時もあり、いずれも心理的な興奮が少なからず生じると考えられます。特に悪い結果やパフォーマンスであったときには、頭から離れず眠れないといった状況を招き、コンディションを崩す恐れもあると思います。そこで休養に集中するために、人に話す代わりにブログに話すように思いついたままを書くことで、一度その日の試合でのことを頭から引き離しているのではないかと思われます」 このことにより、二つの効果が生まれるのではないか、という。 「一つは、翌日にブログを読み返すことで、昨日の上原投手が今日の上原投手に『今日はこういう準備をするんだぞ!』とか『今日はこういうところを課題に投げるんだぞ!』と話しかけてきて、その日の行動の明確な指針になっているということです。これによって、自分の中で根拠を持った必要な準備をすることができ、自信をもってマウンドに上がれるのではないかと思われます。 もう一つは、いつか行き詰まって悩み、振り返りたいとき(例えば、シーズン終了時に翌年の準備を考えるときなど)に、その時のパフォーマンスの内容や見つけた課題だけでなく、どのような心理状態であったかといった思考や感情まで思い返しやすくなるということです。人はある程度、行動や思考がパターン化されます。したがって、このようなブログの書き方をしておけば、それを読み返したときに、思考や感情・情動の記憶まで呼び起こしやすくなるということが考えられます」 以上をさらに整理し、「振り返る行為そのものに意味があるのではないか、実は、彼を支える要素になっているのではないか」という冒頭の仮定に戻ると、スポーツ心理学の専門家の目には、振り返りブログが、上原が長く一線で活躍をする上で以下の役割を果たしているのでは、と映る。 ・ 自身が次の登板で良いパフォーマンスをするために必要な情報を整理している ・ 自身がしっかり休むための、頭の整理や切り替えをする ・ 自身がトップ選手であり続けるために必要なことをデータとして蓄積する 当たり前なのかもしれないが、やはり一流のアスリートが長く、実績を残す背景には、それ相応の理由があり、こうした日々の積み重ねこそが、大きな差を生む。若いアスリートも、上原から学ぶことが多いのではないか。 スポーツ心理学の世界において、目標設定技法そのものは基本的なトレーニングであり、育成段階から学ぶという。やがてそれが習慣化し、実体験の中で消化できるようになると、効果がはっきりとした形になるのかもしれない。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)