新聞記者が13年かけて、民間人”立入禁止”の「硫黄島」に上陸した瞬間
そしてC130は硫黄島に舞い降りた
座席の配置は地下鉄のように2列が向かい合う形式だった。正面に座った団員たちの表情を見ると、皆一様に、やれやれようやく出発だと安心しきった様子だった。そうでなかったのはおそらく僕だけだ。報道関係者である僕はこの段階になっても、搭乗を拒否される不安を抱いていた。「どうかこのまま離陸しますように」と祈り続けた。 午前10時32分。ついにC130はエプロンからゆっくりと滑走路に移った。そして、滑走を始めた。民間航空機では経験したことのない、まるで洗濯機の中に放り込まれたような振動と騒音だった。走行する方向に対して横向きに座っているため、上半身が倒れないようハンモック型の椅子のパイプ部分につかまった。 いよいよ僕はかの島に旅立つのだ。もうここまできたら降ろされることは絶対にない。初めて安堵した。車輪が今まさに本土から離れたと感じたその瞬間、僕は天国の兵隊さんたちに向けて「ありがとうございます!」と声を絞らずに言った。その声は、プロペラの轟音でかき消され、誰の耳にも届かなかったはずだ。 硫黄島までの搭乗時間は2時間40分。午後1時2分、機体は下降を開始した。客室乗務員役の武骨な男性隊員による低い声のアナウンスが流れた。轟音の中、なんとか聞き取れた。「当機は間もなく硫黄島に到着します。座席ベルトを確認してください」。その太くて低い声は、僕には天国の兵隊さんたちからの福音に聞こえた。 やっと来たね、待っていたよ──。 つづく「「頭がそっくりない遺体が多い島なんだよ」…硫黄島に初上陸して目撃した「首なし兵士」の衝撃」では、硫黄島上陸翌日に始まった遺骨収集を衝撃レポートする。
酒井 聡平(北海道新聞記者)