救える命がそこにあるのに “母乳バンク”新たな機器購入に資金難の壁
小さな体で生まれた赤ちゃんの命を救うため、ほかの母親から寄付された母乳を医療現場に提供する「母乳バンク」。年間5000人もの赤ちゃんが、この「母乳バンク」が提供する“ドナーミルク”を必要としています。しかし今、「母乳バンク」は利用する医療現場が増える一方で、安定的な“ドナーミルク”の供給に必要不可欠な1台の低温殺菌処理器が購入できないという資金難に直面していました。 ▼体重1200gあまりの赤ちゃん “ドナーミルク”が救った命
■小さな体で生まれた赤ちゃんの命を救う“ドナーミルク”
「母乳バンク」をご存じでしょうか?ここで提供されているのは、その名の通り全国の母親たちから寄付された「母乳」です。その母乳は“ドナーミルク”と呼ばれ、国内3か所にある施設で細菌検査など安全性の確認を行った上で、医療現場に無償で提供されています。 この“ドナーミルク”を利用するのは、早産などで体重1500グラム未満で生まれた赤ちゃんです。腸が未熟なため、牛の乳由来の粉ミルクはうまく消化吸収できず、腸が壊死してしまうなどの危険性があるといいます。 そのため母乳が必要で、赤ちゃんの母親が病気や体調が整わないなどの理由で母乳が与えられない場合には、この“ドナーミルク”が有効とされています。赤ちゃんの命を救う役割を担っているともいえるのです。
■“ドナーミルク”利用施設が増加する一方で新たな課題
2013年から始まった「母乳バンク」の取り組みは、その重要性が認められるとともに広がりを見せ、これまで1600人を超える赤ちゃんに“ドナーミルク”が提供されてきました。そして、“ドナーミルク”を利用するNICU(=新生児集中治療室)は、2019年にはわずか10施設でしたが、ここ数年で大きく数を増やし、現在は93施設にのぼっています。 しかし、利用が広がる一方で、“ドナーミルク”を提供する拠点の「母乳バンク」は、東京・日本橋の2か所と、今年6月に開設された愛知県内の1か所の計3か所のみ。 さらに、そのうちの1拠点の「日本母乳バンク協会(東京・日本橋)」では、病院からの利用料や寄付金などでどうにか運営を維持していることもあり、“ドナーミルク”を安定して供給するために必要な低温殺菌処理器の購入費用が捻出できず、資金難に直面しています。 「母乳バンク」を運営する昭和大学小児科主任教授の水野克己医師によると、購入を目指している低温殺菌処理器は全自動であることに加えて、1回約9リットルと現在使用している処理器の3倍の処理能力があり、“安全なドナーミルク”をより多くの赤ちゃんに届けるためには必要不可欠だといいます。 そして何よりも懸念しているのは、今使用している処理器が故障した場合、バックアップになるものがないことです。イギリスから購入している機器のため、輸送して修理を終えるまでの間、数か月にわたり“ドナーミルク”を提供できなくなる可能性があるというのです。