「24歳の初産は心細いけど母がいる実家には帰りたくない……」夫にも秘密のコンプレックスを抱える娘の本心
平穏な日常に潜んでいる、ちょっとだけ「怖い話」。 そっと耳を傾けてみましょう……。 前編のあらすじ 春奈(53)は3人を育てたワーキングマザー。待望の女の子だった末っ子・英玲奈(24)とどうにも性格が合わず、上の男子ふたりと比べて可愛いと思えないことに密かに悩んできた。そんなある日、英玲奈からメッセージが入る。「結婚する、妊娠していて、彼は36歳の京都のひと。結婚したらあちらにいく」という寝耳に水の内容に、春奈は衝撃を受ける。一方、娘の英玲奈は……?
娘・英玲奈の独白
――すぐに電話に出ると大騒ぎになるから、お母さんが落ち着いてからにしよう。 さっきから何度もかけなおしてくる電話が誰からかなんて、見なくてもわかる。10分前に思い切って送ったメールの送信先、お母さんで間違いない。 私はとりあえず第一報を入れたことで少し安心し、そうっとベッドに横たわる。午前中仕事が忙しかったせいだろうか、お腹が張っている。産婦人科で処方してもらった張り止めを飲んで、安静にしているしかない。 こんな時、彼が関西にいるのは心細い。ぎりぎりまで働いてからこっちで出産して、あちらに引っ越そうかと思ったけれど、まだ予定日まで4カ月以上ある。それまで一人暮らしか。何かあったときの対処法を真剣に考えなくちゃ。 24歳で、予定外の妊娠だけど、つきあって2年。私も彼も結婚することに迷いはなかった。でも周囲の友達にも出産経験があるひとはいなかったし、実際は不安なことだらけ。 ――初産ていったら、普通は実家に帰るものだよね……。 お母さん……頼ったら、きっと喜んでなんでも手を貸してくれるだろうな。そう思えば思うほど、その様子がありありと浮かんできて、私は素直に駆け込む気にはなれずにいた。 お母さんは、仕事も子育ても全力投球。まだ制度もろくに整っていない時代に仕事と3人の子育てを両立したすごい女のひとだと思う。 彼女はだいたいにおいて正しいし、世の中は頑張ればなんとかなるとピュアに信じている。 本人はまったく意識していないけれど、進学校から有名難関大学を出て、営業職としてはつらつと働き、なんていうか、なんでもできるタイプのひと。毎晩仕事を持ち帰って、子どもたちが寝たあとに仕事をするぐらい頑張っていても、家ではイライラせずだいたい陽気で笑顔だった。 働いているのに家族の食事にも相当気を配っていて、家のなかはシンプルだけど清潔で快適に保たれていた。それがどれだけ大変なことかは、働き始めて痛感していた。私なんて独り身なのに帰宅したら何もかも億劫で、料理もろくにできやしない。 ……そして何よりも、私を気後れさせる理由。母は、きれいなひとだった。