晴海フラッグでは逮捕者も…マンション内覧の“鍵問題”が業者の怠慢とはいえない複雑事情【不動産業界 噂の現場】
【不動産業界 噂の現場】 東京都中央区の大規模マンション「晴海フラッグ」で、公共の柵に鍵の入ったキーボックスを設置したとして、都内の不動産会社代表が軽犯罪法違反の疑いで書類送検された。内覧のための鍵の受け渡し目的だったが、都の管理する柵への無断設置は業務妨害にあたるとされた。 【写真】オリンパス社長が違法薬物で辞任 事実上の“解任” 周辺では約220カ所で約30個のキーボックスが発見されており、現在は撤去が進められている。 晴海フラッグ内には約1500室もの賃貸住宅があり、連日、頻繁に内覧客が訪れる。従来なら仲介担当の会社が元付(もとづけ)と呼ばれる物件管理会社から鍵を預かって内覧に向かう。しかし、鍵のやりとりの手間を省くため、現地でのキーボックス利用が横行したようだ。 だが、これは不動産業者の単なる怠慢とは言い切れない実情がある。 「不動産会社にとって、鍵の受け渡しは大きな負担になっています。実際に1件の物件内覧のために鍵で数時間を取られることもある。人手不足が深刻な今、鍵の受け渡しにかかる人件費は経営を圧迫する要因の一つ」と、賃貸仲介業に詳しい経営コンサルタントの南智仁氏が解説する。 一方で、キーボックスの安易な設置には深刻なリスクも伴う。先月には内覧用のキーボックスを悪用し、空き部屋に現金を送らせる特殊詐欺事件が都内で発生。犯人と、もみ合いになった配達員が大けがを負うという事態に発展した。 この課題に対し、業界ではいくつかの対応策が模索されている。一つは物件近くの不動産店舗で相互に鍵を預かり合う従来からの態勢だ。ただし、晴海フラッグのように、周辺に不動産店が少ないエリアだと、この方法での対応は難しい。 もう一つの解決策として、スマートロックと呼ばれる電子キーシステムの導入が挙げられる。 スマートロック製造のライナフ(東京)の滝沢潔社長は「最新の鍵では仲介担当者のスマホアプリに解錠機能を付与できるので、物理的な鍵の受け渡しは必要ありません。暗証番号を知らせる方式でもネット上ですぐに変更できるため、悪用できません。鍵の紛失といったリスクも発生しません」と説明する。 入居時の鍵交換費用も不要になるメリットがあるが、導入費用の負担が重く、賃貸住宅では普及が進んでいない。だが、今回の事態を受けても「新規導入の問い合わせは、まったく増えていません」(前出の滝沢社長)。 鍵管理は不動産業の根幹を成す重要な課題だ。今回の件でセキュリティーの確保と管理コストの削減、この相反する要請に向き合わざるを得なくなりそうだ。 効率を求めて設置したキーボックスが、思わぬ扉を開けることになったのかもしれない。 (ニュースライター・小野悠史)