53万人がストライキに参加したアメリカ、労働組合への高い支持率が賃上げラッシュにつながった 背景に”長年の不満”労働者票は選挙結果にも影響【混沌の超大国2024 アメリカ大統領選⑤】
▽上位1%に恩恵、所得格差は「政治的につくられた結果」 スト活況の裏で見逃せないのは、1980年代以降に広がった所得格差への不満と、党派を超えた裾野の広い労組への支持だ。 米労働省などによると、労組に加入する労働者の組織率は1983年の20%から、2023年には10%へと半減した。それと反比例するように、上位1%の富裕層が占める所得は1983年の12%から2022年に21%へと上昇している。 米シンクタンクの経済政策研究所は「1930年代半ばから1970年代後半までは(政策や団体交渉で格差を縮めた)『大圧縮』の時代だったが、その後は不平等が拡大し続けた」と分析した。現在のアメリカの所得格差は「要するに政治的選択の結果」であり、政策が意図的に作り出したものだとして是正の必要性を指摘する。 歴史的に蓄積された不満は、労組への支持につながっている。ギャラップ社が2023年に実施した世論調査では国民の67%が労働組合を支持した。以前から労組を重んじる傾向にある民主党支持層では88%に上り、共和党支持層(47%)や無党派層(69%)でも高い水準と言えそうだ。
▽「今度はあなたたちの番だ」労働界のスターは大統領選にも影響力 アメリカでは今年も労組結成やストが続くとみられるが、中でも自動車業界の動向が注目されている。昨年の大規模ストを成功させたUAWのフェイン会長は「今度はあなたたちの番だ」と、組合のない自動車大手での労組結成を呼びかけている。 UAWは、狙いを定めるトヨタ自動車やホンダ、日産自動車、SUBARU(スバル)、マツダの日本勢、韓国の現代自動車や米電気自動車(EV)テスラを含む14社の状況をまとめた特設サイトも開設した。 一方、11月に迫る大統領選では激戦州の労働者票が今回も鍵となることは間違いない。バイデン大統領はフェイン氏に再三支持を求め、今年1月にようやくUAWの推薦を得た。フェイン氏の人気を取り込もうと、バイデン氏の遊説先でツーショットを見る機会も増えていきそうだ。 かつて民主党の地盤だったミシガン州などは製造業の空洞化で「ラストベルト(さびた工業地帯)」と呼ばれるようになり、2016年の大統領選ではトランプ前大統領が経済停滞にあえぐ白人労働者の不満を支持につなげて勝利した。2020年には逆にバイデン氏が奪還してトランプ氏を引きずり降ろす原動力にもなっている。
「あなた方がこの国をつくり、動かしている」。トランプ氏は各地の集会で、自分こそ労働者の味方だとアピールを続けている。ストと労働者票の動向は、アメリカのみならず世界を大きく変える可能性を秘めている。