羊の足みたい!? メゾン マルジェラの「タビ」シューズの履きこなし方【栗山愛以、モードの告白】
さて、新しく仲間入りしたレースアップシューズですが、私はこちらについては「“タビ”のシルエットによってちょっとひねりが効いているベーシックアイテム」と捉えています。レースアップシューズはどんなスタイルにも合うので便利ですが、王道過ぎるとつまらない。ですから、このシューズをはく時は「タビ」であることをあまり意識していません。 一方で、「タビ」ブーツをはく時はかなり慎重になります。それだけでマルジェラ感を纏える気がすると言いましたが、強大な力を持っているゆえにそれに頼り過ぎてしまうのを恐れているからです。ファッションを生業にしているからには、「なんてことのない格好だけど、足元“タビ”ブーツにしておけばおしゃれな感じに着地するでしょ」といった安直な発想は避けたい。そんな私のどうでもいいプライドをかけた戦いは周りの人は知ったこっちゃないでしょうが、毎回スタイリングにおける「タビ」ブーツの必然性を自問自答したうえで手に取っているのです。 ファッションの知識があればロゴを見なくともブランド名がわかる靴はありますが、「タビ」はそれと同時にブランドを知らない人や足袋に馴染みのある日本人でも、友人のお母さんのように目がいってしまう。私がパリコレクション取材の際もよく「タビ」ブーツをはいていたことから海外紙の記者に「文化の盗用だと思わないか」と聞かれたことがありますが、「“敬意がない”、“侮辱されている”、“貶められている”とは全く感じないので問題ない」と答えました。それどころか、よくぞ足袋に目をつけてここまでブランドの精神を象徴する、存在感のあるデザインにしたものだ、と感嘆するばかりです。 TEXT BY ITOI KURIYAMA 栗山愛以(くりやまいとい) 1976年生まれ。大阪大大学院で哲学、首都大学東京大学院で社会学を通してファッションについて考察。コム デ ギャルソンのPRを経て2013年よりファションライターに。モード誌を中心に活動中。