社長と大喧嘩した後、社長から「面白かったよ」とメール クラフトビールのトップ企業、そのユニークな組織文化
日本のクラフトビール醸造所の先駆けとして、1997年に軽井沢で誕生した株式会社ヤッホーブルーイング。現社長の井手直行氏は2008年、創業者の星野佳路氏(※星野リゾート代表)から、星野リゾートのグループ会社である同社を引き継いだ。個性的なブランディング展開とファンイベントなどの戦略で、他のクラフトビールメーカーの追随を許さない。井手社長に、その源泉となるユニークな組織文化について聞いた。 【動画】なぜ事業承継が大切なのか専門家に聞いた。
◆代表就任のきっかけになった星野さんとの口論
----ヤッホーブルーイングを、どのような経緯で引き継いだのですか? 2006年、ある大手コンビニから「スポット販売」の提案がありました。 1回だけ店舗で販売して様子を見よう、というものです。 当時、クラフトビールブームの終焉で陥ったピンチから脱却し、インターネット通販も軌道に乗ってきたころでした。 「一度コンビニで手にしてもらえたら、その後もネットで買ってもらえる。いい機会だ」と思い、東京にいた星野とオンライン会議をしました。 すると猛反対されました。 星野は、「いっときだけあってすぐ無くなったら、売れないから扱いをやめた、と消費者は思うに決まっている。大切なブランドに傷がついてしまうからだめだ」と主張しました。 議論しているうちに感情的になり、私が「社長がそんな風だから、会社は成長できないんですよ」と非常に生意気な言い方をしたら、すごく怒ってしまって。 「お前、何言ってるんだ?」と怒鳴られました。 周りで聞いていた社員が驚き、「普段怒らない社長があんなに怒鳴るなんて、井手さんも終わったね」などと話していたようです。
◆「井手さんが社長をやったほうがいいね」
----大論争からどうやって和解し、社長を継ぐことになったのですか? 口論した日の夜、星野からメールが来ました。 これは昼間の続きだな…と、構えながらメールを開くと、「今日はおもしろかったね、久しぶりにいい議論をして楽しかったよ。井手さんが言うのも一理あるね、考えてみるよ」という内容でした。 私は、子どもみたいに感情的だったのに、星野は私の意図を汲んでこんなメールを返してくる。 その寛容さに驚きました。 2日後に再びミーティングをした時、「井手さんが社長をやったほうがいいね。私はあまり現場にいないし」と言われ、さらに驚きました。 あんなに言いたいことを言って、クビになってもおかしくなかったのに…。 私の返答がまた生意気で、「いいですよ、社長になろうがなるまいがやってることは変わらないし、肩書きで仕事してるわけじゃないですから。ぼくがやったほうがいいかもしれませんね」と答えました。 「ありがとうございます、務めさせていただきます」なんて、一言も言わなかったですね。 後日、星野があるインタビューで語っていたのですが、彼は同族企業にいたため、社員がトップの顔色をうかがいながら仕事をする環境が嫌だったようです。 そのため「言いたいことを言える」フラットな組織になるよう日々取り組んでいました。 その中で、私は社長より消費者の顔を見て仕事をしていて、忖度せず言いたいことを言っていた。 私に事業を任せようと思った理由の一つです。