〝TSMC城下町〟に「玄米パン専門店」、あえて親会社のクボタ色を消した思惑
台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県菊陽町に構えた巨大工場が動き出す。24日に開所式が開かれる予定で、2024年中には本格稼働が見込まれている。第2工場も熊本県内と6日公表され、同町での建設が有力視される。工場稼働に伴って今後は駐在員とその家族が大挙して台湾から熊本へと移り住む。ピンポイントで人が集まればビジネスチャンスが生まれる。「TSMC城下町」で、千載一遇の好機を捉えようとする地場企業の動きを探る。 熊本玄米研究所は1月末、約2億円を投じて玄米パン専門店を移転、リニューアルオープンした。同社はクボタグループで農業機械販売を手がける中九州クボタ(熊本県大津町)の子会社。新店は菊陽バイパスと呼ばれる国道57号線沿いで、店舗手前に交差点があり、熊本市内からと阿蘇方面の両方からアクセスしやすい。 店名は「コメノパンヤ玄氣堂(げんきどう)」。コメの消費拡大を目的に開いた店舗は、玄米の栄養をペースト化する技術を生かしたパンやパスタなどが売りだ。新店舗から台湾積体電路製造(TSMC)の巨大工場は車で10分程度と近い。 大津町の旧店舗は中九州クボタ本社横にあったが2016年4月の熊本地震で周辺道路が被災。地震後の客足に影響が出たという。 新店舗は床面積約370平方メートルと従来比約1・6倍、大きなガラス張りで日当たりの良いイートインスペースでは20人程度が出来たてのパンを味わえる。駐車場は約80台が止められ、旧店から5倍増となり大多数を占める車利用の来店客に配慮している。開店直後の新店舗には地元客らが詰めかけて、お目当てのパンやパスタを選んでいた。 目玉となる小麦など穀物のたんぱく質の主成分、グルテンを除去した「グルテンフリー」の材料は炭水化物の摂取量減につながるため、ダイエット効果が期待される。「店舗とともにグルテンフリーの認知度も高まってきた」と中九州クボタと熊本玄米研究所の西山忠彦社長は実感する。富裕層にも評価され、シンガポールなど複数の海外路線の機内食で採用実績がある。 店舗やイートインでは「聞かれないと分からない」(西山社長)と、あえて親会社のクボタ色を出していないのもミソ。熊本や九州の農業関係者が気を使わなくて済むように、幅広い来店を促す思惑がある。 パンなどの販売は地震やコロナ禍の影響を余儀なくされてきただけに、TSMCの本格稼働は、にぎわい創出への好機到来だ。 ▽所在地=熊本県菊陽町原水2897▽設立=13年(平25)10月▽事業内容=グルテンフリーの玄米パンの製造・販売
日刊工業新聞