「近親相姦」はなぜしてはいけないのか…人類最大の禁忌「インセスト・タブー」にまつわる「驚きの学説」
「人類学」という言葉を聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろう。聞いたことはあるけれど何をやっているのかわからない、という人も多いのではないだろうか。『はじめての人類学』では、この学問が生まれて100年の歴史を一掴みにできる「人類学のツボ」を紹介している。 【画像】なぜ人類は「近親相姦」を固く禁じているのか ※本記事は奥野克巳『はじめての人類学』から抜粋・編集したものです。
「限定交換」と「一般交換」
『親族の基本構造』のレヴィ=ストロースの説明は精密に進められています。少し難しくなるかもしれませんが、ここではその一端を紹介しておきたいと思います。 まず、レヴィ=ストロースは婚姻により生じる女性の交換を「限定交換」と「一般交換」の2つのタイプに分けています。女性に対して「交換」という言葉を使うことに違和感を抱く方もいるかもしれません。これに関しては、現代のジェンダーの観点からは時代遅れと捉えられる向きもあろうかと思います。ここでは、あくまでレヴィ=ストロースの学説を理解するうえでの用語として使用していると断りを入れ、以後この言葉を用いることにします。 「限定交換」とは、2つの集団から成る社会で、片方の集団Aの男性が、もう片方の集団Bの女性と結婚することを選好する制度です。集団Aは、妻となる女性を集団Bから受け入れ、Aは自集団の女性を妻としてBに与えるというように、2つの集団は、女性を与え合う互酬的な関係にあります。 他方で「一般交換」とは、3つ以上の外婚集団から成る社会で行われる「縁組理論」のことです。例えば、集団A、B、Cがあると想定した場合、AはBに自集団の女性を妻として与えるのですが、Bは自集団の女性をAに与えるのではなく、Cに与える。CはAに女性を与えます。「一般交換」では、A→B→C→Aという流れで女性が一方向に流れ、全体として社会を女性が「循環」します。そこでは「限定交換」のような互酬性がないように見えるのですが、女性の循環の中で考えれば、AはBに女性を与えることで、Cから妻となる女性を受け取ることができるため、間接的に互酬的関係が成立しているのだと言えます。