石破内閣がぶち上げた「サプライチェーン強靭化」、なぜ今「国内回帰」が必要なのか?
10月27日に衆議院議員選挙の投開票を控える石破 茂首相は所信表明演説で、半導体といった重要産業におけるサプライチェーンの国内回帰を含む強靭化などの方針を示しました。過去の本連載では、半導体のサプライチェーンとその大規模な不足のメカニズムについて解説していますが、今回はなぜ今、日本がサプライチェーンの国内回帰を目指すべきなのかについて、サプライチェーンデザインという観点を踏まえて掘り下げたいと思います。 【詳細な図や写真】図1:サプライチェーンデザインは10個の要因が影響する(出典:『サプライチェーンの計画と分析』(日本実業出版社)第9章より編集部作成)
サプライチェーンデザインとは?
改めてサプライチェーンとは具体的に、モノの流れだけでなく、関わる企業やその間の商取引などを含み、モノも顧客の手にわたる最終的な形の商品だけでなく、その原材料や部品、仕掛品なども対象となります。ではなぜ、石破首相はサプライチェーンの国内回帰を目指すと表明したのでしょうか。これを理解するには、サプライチェーンデザインを理解する必要があります。 ・どこから原材料・部品を仕入れ どこで誰が生産し どのルートでどんなモード(航空機や船、鉄道など)を使って運び どこにどんな状態で保管し どのエリアでどんなチャネルを通じて販売するか これはマーケティング戦略や財務戦略、さらには事業戦略なども影響する、大きな意思決定と言えます。明治大学の橋本教授によると、こうしたサプライチェーンデザインには、図1にある10個の要因が影響しているとしています。
平成のサプライチェーン戦略
日本では2000年代くらいからサプライチェーンマネジメント(SCM)の概念が広がっていきました。2010年代以降、企業においてもSCMの名が付く部署が設置され始め、私が所属していた売上1兆円規模のメーカーでは、2013年にSCM統括部が設置されました。 SCMの概念の浸透で目指されてきたのが全体最適です。それまではサプライチェーンを構成する調達や生産、物流、販売などの部門がそれぞれの機能のKPI達成だけを重視して活動した結果、部分最適になっていたと指摘されています。 これをサプライチェーン全体で効率化していくことが目指され、中でもトータルコストに影響が大きかった生産コストが着目されました。生産コストとは、商品の原材料・部品などの費用だけでなく、「工場の土地代、建物代」「生産に携わるスタッフの人件費」「工場の水道・ガス・光熱費」なども含まれます。 原材料のサプライヤーや顧客がグローバルに拡大する中、生産コストを抑えるために、工場を土地代や人件費の安い海外へ移すというオフショアリングが行われました。この動きは日本だけでなく、米国などの先進国でも同様でした。 しかし2020年以降、サプライチェーンコストの内訳が大きく変化していきました。