「トランスフォーマー」で育ったジョシュ・クーリー監督が明かす、『トランスフォーマー/ONE』のインスピレーションの源とは?
今年で発売から40周年を迎えたハズブロの人気玩具を原作に、マイケル・ベイ監督とスティーヴン・スピルバーグという2大ヒットメイカーのタッグで世界中を熱狂させてきた「トランスフォーマー」シリーズ。そのすべての物語の起源を描く『トランスフォーマー/ONE』(公開中)は、実写映画シリーズがスタートした約20年前から温められてきたアイデアをもとにした、まさにシリーズファン待望の最新作だ。 【写真を見る】往年の名作映画などからインスピレーションを受け、壮大な世界観が展開 ■「アニメへの愛情はすべて『トランスフォーマー』から来ている」 そんな本作でメガホンをとったジョシュ・クーリー監督も、「トランスフォーマー」に幼いころから魅せられてきたファンの一人。ピクサーのクリエイターとして『インサイド・ヘッド』(15)では脚本を、『トイ・ストーリー4』(19)では監督を務めた彼は、「毎週土曜日にテレビで観ていた『トランスフォーマー』が、アニメーションの道へ進みたいと思ったきっかけ。おもちゃも全部持っていたし、私のアニメーションへの愛情はすべて『トランスフォーマー』から来ています」と語るほど。 本作の舞台はサイバトロン星。地下都市で働く若い2人組のロボット、オライオンパックス(オプティマスプライム)とD-16(メガトロン)は、変形能力を持っておらず、性格は対照的であるが互いを支え合う無二の親友同士。ある日、謎のSOSメッセージに導かれるようにして変形能力を手に入れた2人は、その力を駆使して迫り来る危機に立ち向かっていく。やがてサイバトロン星の運命を左右する大規模な戦闘がはじまるなか、オライオンパックスとD-16の友情にも微妙な変化が訪れることに。 “いちファン”として、クーリー監督は本作の壮大な世界観をどのように作り上げていったのか。そこには様々なインスピレーションの源が存在しているのだと明かしてくれた。まず脚本を読んでオライオンパックスとD-16の関係性を旧約聖書に登場するカインとアベルに重ね合わせ、その神話的な魅力を映画のなかに落とし込もうと考えたクーリー監督は、『十戒』(57)や『ベン・ハー』(59)、『スパルタカス』(60)、『アラビアのロレンス』(62)といった歴史スペクタクル映画の名作からヒントを得たという。 また、オライオンパックスとD-16の深い絆を描くうえで、クーリー監督自身の実体験も参考にしたのだとか。クーリー監督には弟がおり、アニメーション作家として活躍する兄に対し、弟は殺人課の刑事として働いているという。「私たちは同じものを愛して育ちました、考え方もよく似ていたけれど、私たちは成長するうちに私は私の方向へ、弟は弟の方向へと進んでいきました」。同じように育った者でも異なる道を選ぶことがある。そうした経験が、本作の中心にいるキャラクターにも反映され、ドラマ性を高めているようだ。 ■「1930年代のニューヨークこそ、繁栄するサイバトロンにふさわしい」 さらに「この映画の美学は、1980年代のアニメ版や劇場版アニメのすばらしいデザインからも間違いなく影響を受けている」と語るように、これまで作られてきた「トランスフォーマー」シリーズの歴史を愛情をもって振り返り、それらを融合した作品が目指されている。そこで重要視されたのは、物語の舞台となるサイバトロン星のデザインと、登場ロボットたちの人間味あふれる感情の表現だ。 「この映画では、なぜ彼らがこの惑星を愛しているのかを示すことがとても重要でした。これまでのシリーズで描かれてきたサイバトロン星は、大抵の場合どんよりしていて崩壊していたので、繁栄している時にはいったいどんな姿だったのか?を考えました。どうすれば美しくなるか、美術スタッフや撮影スタッフと調査を重ね、すばらしい風景を作り上げていきました」と、その仕上がりに自信をのぞかせる。 風景のモデルとなったのは、大恐慌時代が終焉を迎えきらびやかなビルが数多く建てられた1930年代のニューヨーク。「エンパイアステート・ビルディングやクライスラー・ビルディングのような巨大なタワーは、まるでロボットが設計して建てたようにも見えます。この時代のアメリカからインスピレーションを得て、できる限り大きなものを作ることを目指しました。これこそ繁栄するサイバトロンにふさわしい時代です」。 そして登場するロボットたちの人間味については、ドイツ出身のイラストレーター、J.C.ライエンデッカーの作品が参考になったという。「彼の絵はまるで生きている彫刻のよう。人間なのに完璧であり、機械のような身体性を備えている。しかし人間らしさは失われていない」。それでもロボットの感情の機微を人間と同じようには描くことは難しく、クーリー監督はロボットたちの目をカメラのレンズのように機能させるアイデアを思い付く。「人が瞬きをして眉をひそめるように、ロボットの目が回転してピントを合わせたり外したりする。そうやって、彼らが考えていることを表現しました」。 こうして大きな風景からごく小さなディテール、ひいては内側に秘めた感情にいたるまでこだわり抜かれたことで、極めて精度の高い“リアルCGムービー”となった本作。クーリー監督は、思い描いたビジョンを具現化してくれたILMのアニメーターとの仕事について「彼らと作品を作りあげることができてとても光栄でした。なぜなら彼らはとても才能があり、皆が『トランスフォーマー』のファンだからです」とうれしそうな表情。 そして最後に、本作の完成前にその世界観の一部をお披露目する機会となったアヌシー国際アニメーション映画祭での観客の反応を振り返る。「あれは夢にまで見たリアクションでした。ファンであるかにかかわらず、誰もが興奮してくれることを願っていた場面を見せたところ、期待通りの反応が起こりました。映画監督としてこれ以上のことは望めません。これこそが力強い映画の魔法です」と、子どものころからの夢が最高のかたちで結実した喜びを噛みしめていた。 構成・文/久保田 和馬