「歳をとるってこんなに素晴らしいんだ」…そんな気持ちになれる「偉大な哲学者の考え方」
魂の成長
人間にとって幸せとはなにか。 どうすればほんとうに充実した人生を送れるのか。 いまこの瞬間に死ぬかもしれないのに楽しくもない仕事をしているのはなぜか……。 【写真】「日本のどこがダメなのか?」に対する中国ネット民の驚きの回答 ふだんは目の前の生活や仕事に没頭している人でも、ときおりこうした「大きな問い」にぶつかることがあるかもしれません。 このような「大きな問い」について、過去に実在した哲学者たちと一緒に考えることができるのが、『哲学者と象牙の塔』という本です。 本書は、デカルトやソクラテス、荘子など古今東西の著名な哲学者の考え方を知ることができるだけでなく、主人公が彼らとともに悩む様子を見ることで、「偉大な思想家が考えたことを自分の人生に活かすにはどうすればいいのか」を学ぶことができるのです。 たとえば、古代ギリシャのプラトンが登場する章では、彼の有名な思想である「イデア」について語られます。イデアとは、ざっくりいえば、さまざまな物事の「本質」のこと。そしてその解説のあと、プラトン本人の言葉というよりはそこから引き出されうる考え方として、年齢を重ねることの意味についての考え方が展開されます。 『哲学者と象牙の塔』から引用します(読みやすさのため、改行などを編集しています)。なお、本文中に出てくる「この城」とは、古今東西の哲学者たちが暮らす「象牙の塔」のことです。 *** プラトン:この城に住んでいるデカルト、スピノザ、キルケゴール、ニーチェ、ジェームズ、ヤスパース、西田幾多郎……、みんな、出口の見えないトンネルの中で何年も苦しみました。自分の研究が全く進まなかったり、精神の病に冒されたり、後悔の念にかられたり……。たいそう辛い経験をしています。 訪問客:哲学者は、常に悩んでいるイメージがあります。 プラトン:繊細で傷つきやすいのかもしれません。でも、そうした決して強くない心が、不本意な時間を重ねると、物事に対する認識力は研ぎ澄まされていく。現に彼らは、辛い停滞のあと、真理とも思えるようなことに気づいた。 訪問客:ちょっと安心しました。 プラトン:もちろん、人とは違う何か特別なことをしたり、誰も行ったことがない場所に行くことは素晴らしい体験です。停滞せずにそれができたら本当に楽しいし、幸せですよね。でも現代人は、そうした経験から自分がどう考えるか、どう感じるかよりも、他人からどうみられるかばかり気にしているようです。 SNSでいくらキラキラアピールしたって、世界がキラキラしはじめるわけではないし、自分が変わるわけでもない。そういう人は、歳をとって自分が注目されなくなると、その虚しさや悔しさが顔にでる。だから本を読んだり、音楽を聴いたり、一人で考えごとをする時間は削らない方がいい。その楽しさをしれば、年齢も他人も関係ないですからね。 カントは、自分の生まれ故郷から生涯出たことはないし、ほとんど同じ日程で地味な一生を送りました。にもかかわらず近代哲学の最高峰と言われる哲学を打ち立てた。作家や哲学者は、実際の体験からではなく、過去に読んだ本の影響や、思索だけで本を書くことが多い。 (中略) プラトン:とにかくどうであれ、人は死ぬ直前まで色々な経験をします。たとえ年老いて身体の自由が利かなくなったとしてもです。身体の自由が利かなくなれば、人は若いころとはまた違った経験の仕方をしますからね。 今度は身体ではなく、だんだんと心で経験するようになるわけです。ますます認識力に磨きがかかると言ってもいい。そうやって人は皆、歳と共にイデアに近づいていく。 訪問者:死の直前まで認識能力が発達するのなら、歳を取るのも悪くなさそうです。 プラトン:はい。生きるとは、自分の認識を広げていくこと。知能の成長には限界がありますが、魂の成長は最後まで続きます。だんだんと若いころには見えなかったものが見えるようになっていく。 そして最終的に人は「世界」のイデアを捉えるはずです。世界のイデアを認識するとき、人は眼や耳といった実際の感覚器官を使うわけではありません。眼では見えない形を見たり、耳では聞こえない声を聞いたり、手では触れられないものに触れることで、この世界の真の姿を知るのです。 訪問者:すごい。 プラトン:そしてこの世界の真の姿を知ったとき、なぜ世界に自分が置かれたのか、その本当の意味を知る。言い換えれば己のイデアを知るのだと思います。 訪問者:いつかは「世界とは何か」そして「自分とは何か」を知ることができるんですね。「ああ。こういうことだったのか!」といった感じでしょうか。 プラトン:ええ、そうですね。そうだと思います。そのとき「これが善というものなのか」という気持ちになれたらいいですね。 *** 年齢を重ねることはなにかとネガティブに捉えられがちですが、「魂の成長は続く」と言われると、歳をとるのも楽しくなりそうです。 さらに【つづき】「「やりたいことがない」…そんな悩みに、偉大な哲学者・スピノザならなんと答えるか? その「意外な回答」」の記事では、スピノザの思想について紹介しています。
田中 正人