【トランプ氏勝利】国際社会 対応問われる(11月7日)
米国と国際社会は一体どこへ向かうのか。共和党のトランプ氏が米大統領選で勝利し、返り咲きを果たす結果に憂慮を禁じ得ない。世界の経済、外交、安全保障の行方は不透明の度を増し、緊迫化する中台、アジア情勢への影響も読み切れない。日本をはじめ国際社会の立ち位置が大きく問われる。 民主党のハリス氏との接戦が伝えられた中、激戦州を含む全米各州で圧倒的な強さを発揮した。過激な言動を繰り返す共和党のバンス氏を副大統領に迎え、上下両院の共和党勢力も増すことで、トランプ氏の自国第一の主義、主張に歯止めが利かず、先鋭化しまいか、懸念が募る。 9月のテレビ討論会でトランプ氏は、不法移民が犬や猫などを食べているとの根拠のない主張を展開した。前大統領時の側近は、ナチス・ドイツのヒトラーを敬うような発言をしていたと証言した。トランプ氏自身と支援者らによるハリス氏への誹謗[ひぼう]中傷、移民などへの差別的発言も相次いだ。実業家イーロン・マスク氏を巡っては、トランプ氏への支持文書に署名した有権者に多額の報奨金を出すなどして物議を醸した。
民主主義の根幹を成す選挙は品位を欠き、米社会の分断、対立を深めた。銃撃、放火、爆破予告など、およそ民主国家とは思えぬ事態が続く中でのトランプ氏の勝利は、インフレ、失業、移民問題など、バイデン現政権への不満の広がりが背景にあるとされる。強い米国復権を目指して自国第一に突き進み、民主の盟主の座を放棄するなら、国際秩序の混迷は避けられない。 トランプ氏は、日本を含む外国からの輸入品への関税強化を掲げている。世界的課題の気候変動対策に疑問を呈し、石油の増産も打ち出した。ウクライナ問題を直ちに決着させるとの発言には、ロシアに有利な行動を取るとの観測も流れる。パレスチナ情勢では、世界が求める停戦へ動く気配を見せていない。 自国第一の潮流は、極右勢力が台頭する欧州でも取り沙汰されている。強権的で、西側とも一線を画す次期トランプ政権に、日本はどう向き合うのか。政府をはじめ、超党派で対応をしっかりと固める必要がある。内向きの党利党略で政治を迷走させている場合ではない。(五十嵐稔)