JR東海、静岡で豪華観光列車 ウナギ料理に込めたリニア問題解決の覚悟
大井川水問題が影響するウナギ
ではなぜ、JR東海は今回、観光列車の運行を決断したのだろうか。東急の車両を使うとはいえ、熱海以西の運行を担うのはJR東海だ。定期の旅客列車のみならず、貨物列車も走る東海道本線での運行は、線路容量の制約もあってハードルは高い。実際に、運行ダイヤは手作業で作成されたという。 東急側の提案を受けて運行を決断した背景について、JR東海の丹羽社長は「静岡県の魅力を全国の皆様に知っていただくことで、日ごろからお世話になっている静岡県の皆様に喜んでもらいたい」と説明し、「静岡県への配慮」をにじませた。 JR東海と静岡県と言えば、誰もが思い浮かべるのが「リニア問題」だろう。南アルプストンネル建設工事に伴い、大井川の水量が減少するとして、静岡県は懸念を示している。先日、「リニア推進」の立場を取る鈴木康友知事が就任したが、引き続き、水資源をはじめとする環境問題に対するJR東海の対応については注視していく方針だ。 JR東海による今回の静岡活性化への貢献は、川勝平太前知事時代にリニアを巡って厳しく対立していた両者の「雪解け」の契機になりうるのか。JR東海静岡支社の担当者は、今回の運行と「リニア問題」には直接の関連があるわけではないと断った上で、「両者間の信頼醸成への寄与もあり得る」と述べる。 静岡の名店が手掛ける、沿線の食材を使った料理が提供されるのもクルーズトレインの魅力の1つだが、そんな料理のラインアップにもJR東海の「覚悟」が垣間見える。 行程2日目の昼食で提供されるのが、幻のウナギとも言われる「共水うなぎ」だ。共水うなぎは、井戸からくんだ大井川の伏流水を利用して養殖され、天然のウナギのようなうまみと風味を持つとされる。 南アルプストンネル静岡工区着工に伴い、大井川水系の水資源に影響が与えられれば、その影響は共水うなぎの生産にも及ぶことが予想される。今回、車内で共水うなぎを提供することは、JR東海の「大井川の水資源を守り抜く」覚悟を示しているようにも思える。 もちろん、観光列車を運行すれば、リニア問題解決に向けた議論がすぐに加速するという単純な問題ではない。一方で、JR東海が静岡県の自然や観光資源を重視していることを示すことは、両者の対話の前提となる信頼関係を醸成する一歩にはなるはずだ。
岡山 幸誠