JAXAが日本初の月面着陸に成功! 探査機SLIM(スリム)が世界最強の着陸精度を実現できた理由
JAXAの探査機「SLIM(スリム)」が月面着陸に成功! でも、ちょっと待ってほしい。月面着陸は世界で5番目だし、アポロ11号のように人を月に運んだわけでもない。探査機はひっくり返って着陸してたし、この後地球に帰ってくるわけでもない。 【図】SLIMのユニークな着陸方法 それでもSLIMの成し遂げたことには大きな意義があるという。いったい何がスゴいの? ■世界初のピンポイント着陸 1月20日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小型無人探査機「SLIM」が日本初となる月面着陸に成功した。エンジントラブルによってほぼ逆立ち姿勢での着陸になり、発電用の太陽電池パネルに太陽光が当たらないトラブルはあったが、その後太陽の向きが変わり電源も復旧。さまざまな調査を行なっている。 元NASA研究員で、ポッドキャスト『佐々木亮の宇宙ばなし』を配信する佐々木亮さんによると、まずなんといってもSLIMの着陸方法が革新的だったという。 「SLIMは世界で初めて、月面でのピンポイント着陸を成功させました。従来の他国の月面着陸とは比較にならないほど高精度だったんです」 今までの月面着陸の精度はどの程度だった? 「数十㎞程度の誤差が出るのが普通でした。アポロ11号の頃はもっとラフで、日本でいうと『東京に行きたいけど、関東平野のどこかに降りたいな』というくらいの精度です。 というのも、時速約6400キロなどの超高速で飛ぶ着陸船を軌道や速度の計算だけでコントロールするわけですから、どうしても大きな誤差が出てしまうんですね。 ところが、今回のSLIMは目標点からわずか55mの所に着陸しました。そのスゴさがわかりますよね」 なぜそんな精度が可能に? 「計算ではなく、月面のマップとの照合で位置を測ったからです。月周回衛星『かぐや』による月面のデータが生きたんですね。月面マップはアメリカやインドなどが持っているんですが、それを着陸に使ったのはSLIMが初です」 過去の探査の積み重ねの上に今回の成功があるわけだが、SLIMのスゴいところはほかにもあるという。 「SLIMは着陸方法もとてもユニークです。今までの月やほかの惑星への着陸では三脚のような脚を広げて衝撃を受け止める方法が主流だったのですが、それだとどうしても機体が大きく、重くなってしまう。そこでSLIMは脚ではなく、5つの半球状のクッションでショックを受け止めることにしたんです」 着陸の方法を具体的に見ていこう。月の周回軌道を回るSLIMは現在地を確認しながら徐々に減速し、同時に高度を下げていく。そして高度7㎞ほどに至ると、垂直降下を開始。開始直後の速度は時速約200キロだから降下というより月面に向かって落っこちている感じだが、ロケットの逆噴射で速度を落としていく。 月面から高度50mほどまで接近したら、着陸予定地を確認し、岩などの障害物があれば自動で回避する。そして高度約3mでメインエンジンを切って地表に降下する。 重要なのはここからだ。今回の着陸地点はクレーターの縁に位置する15度ほどの傾斜地なので、着地が難しい。そこで接地の直前に機体を斜面の上方向に傾け、まずはひとつ目のクッションでドンと月面にぶつかる。 次に上方に倒れ込みつつ残りのクッションも接地させる。まるで受け身を取るように着地する、世界初の「2段階着陸方式」に挑んだ。