齋藤飛鳥が『【推しの子】』アイ役を「無理だな」「私じゃない」と断った深い理由。2度目のオファーは「腑に落ちた」
ファンの推し方が変わっていった11年
――齋藤さんの場合は、自分の素の部分がキャラクターに結びついて不動の地位を確立されたのだと思いますが、グループ内の人気にも神経を擦り減らした時期もあったかと思います。アイも周りに「自分たちは引き立て役」と認識されて、苦労した描写もありました。 若い時は感じていましたね。当時は悔しかったし、結果を出すためにはどうしたらいいんだろうと悩みました。キャラが迷走していた時期ですね。 ただ、私がいたグループは基本的に平和だったので、気を病むほどではなかったような気がします。 ――なぜ平和でいられたんだと思いますか? みんないい子だったというと元も子もない話なんですが、自分個人のことよりもグループについて考える人が多かったんだと思います。 乃木坂は当初、「誰もが知ってるような代表曲」がないという課題感がありました。作っていただいた楽曲は素敵なので、要するに自分たちの実力不足なのかなと……。グループとして伸ばすべき点があるとみんなが思いながら活動していたので、団結力に繋がったんだろうと思います。 ――ファンの方の姿勢も大きかったような気がします。 そうですね。アイを殺してしまう狂信的なファンのような、自分の推しを崇める姿勢は減ったのかなと思います。昔は「推しが一番」「推ししか見えない」みたいな人が多いように感じていたのですが、私がアイドルをやっていた11年の間、その姿勢が変わっていくのは肌で感じていました。 なんとなくですが、「推しは最高だけど、他の子も最高だよね」という方が増えてきたような気がしますね。いろんな推し方が増えたというか……。グループ所属のアイドルとしてはありがたくて、だからこそギスギスしなくてすんだのかもしれません。 ――迷走して、イキって、いつしか素になるのは、アイがたどり着けなかったところなのかもしれないですね。 私の場合は、周りに恵まれていたので、気がついたら11年も経っていたというのが大きいような気がします。だいぶ気楽でした。アイの場合は、若くして殺されてしまったからこそ、特別感が強くなっていった側面もあるのかなと思います。 きっとアイはみんなから持たれている自分のイメージを崩したくなかったんだろうな……上手に嘘をつくことを選んだというのは、わかる気がします。「嘘」ってドキッとする言葉ですけれど、アイ自身は愛情を求めている人に、愛を伝えようと一生懸命だったんだろうなと思います。 私はアイみたいに器用でもなければ、天才的でもないし、相手が求めることに応えるのも苦手。ファンの方にもメンバーに対しても、「好きだよ」と言ってもらえた時に「好きだよ」と返すことができないアイドルでした。照れくさかったり、不器用だったり、いろいろな理由があるのですが、同じ言葉を返すことができない。でも、形を変えてちょっとでも愛情を伝えたい気持ちがある。 私は、「嘘が愛」という境地まで辿り着けませんでしたけれど、似た感情はある。推しの数だけ究極の形があって、ファンの数だけ推し方がある。それを感じてもらえると嬉しいです。