慰安婦合意、韓国は何に反発しているのか? 日本の今後の対応は
日本政府「1ミリたりとも動かさない」
慰安婦問題に関するこのような対応は日本として看過できません。河野外相は、訪問先のトルコ・アンカラで12月28日、合意に従って解決を図ることの重要性をあらためて強調しつつ、韓国の対応について日本政府は強く抗議したと述べ、さらに、「韓国政府がすでに実施に移されている合意を変更しようとするなら、日韓関係が管理不能となり、断じて受け入れられない」と表明しました。 菅官房長官は、1月4日、日韓合意は「1ミリたりとも動かさない」と語りました。いずれも当然の発言でした。 韓国政府は、残念ながら、慰安婦問題に限らず前政権の決定を繰り返し批判・否定した過去があります。1965年の日韓請求権協定で両国民の請求権問題は解決されていたのに、元慰安婦に対する補償を求めてきました。また、米国との間でも、朴槿恵前政権が合意した高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の配備について変更を求めようとしたため米国を怒らせました。 このようなことが起こるのは、韓国では世論の強い圧力を受けて政府が既定の方針を変更するからです。韓国政府は国民から信頼されていないと言わざるを得ません。 いずれにしても、韓国政府は国際社会で責任ある立場にふさわしい行動を取ることを求められます。日本としても、慰安婦問題に限らず、文在寅政権と協力したことが次の政権によって否定されてはたまりません。そうなれば韓国との協力は常に不安定な状況に置かれます。そのような悪循環に陥らないよう、国家間の合意を順守するのは韓国の現政権にとっても利益なのです。
「再交渉」という言葉を使っていない韓国側
今後、日本としては、文在寅氏が「再交渉」という言葉を使っていないことに注目しつつ、韓国側が具体的にどのように出てくるか見定めるのが先決です。基金を解散したり、「再交渉」を要求したりすれば、日韓関係はさらに悪化するでしょうし、そのようになることには文在寅大統領としても慎重であることを期待するほかありません。文氏は近く方針を発表するとも言われていますが、最終的な新方針を固めるにはかなり長い時間がかかるでしょう。 慰安婦合意に関する韓国政府の対応には明らかに問題があり、日本は有利な立場にありますが、力で相手をねじ伏せるような姿勢は禁物です。慰安婦問題がある国は韓国だけでありません。また、米国などは直接の関係がなくても強い関心を抱いています。日本がバランスの取れた対応をしなければ、国際社会は一変して日本に批判的になるでしょう。 日本では、かつてのように、駐韓大使を一時帰国させる考えが出てくる可能性もありますが、間違っている相手を正すのに何が最良か、国際的な感覚を失わずに慎重に検討する必要があります。
--------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹