バー経営者が思わず感激したお客さんの神対応「カクテルもいいけど…」の素敵すぎる心遣い
気軽に飲めるパブやスナックと比べて、バーは少し特殊な空間だ。シックな照明に洒落たBGM、そして洗練された所作でシェイカーを振るバーテンダー。そんな大人の世界だからこそ、うっかり無作法を重ねてしまっている人も多いかもしれない。バーにとって良い客であるためのポイントを、筆者の店舗運営経験からまとめてみた。(フリーライター 友清 哲) 【旬のフルーツを使ったカクテルはおいしい。でも…】 ● 一介のバーマニアが 経営側に回って初めて気付いた 文筆業を生業とする筆者だが、昨年まで世田谷区の三宿エリアで10年ほどバーを経営していた。バーにもさまざまなタイプがあるが、筆者が営んでいたのはカクテルやウイスキーを中心とする、オーセンティックバーである。 オーセンティック(authentic)とは「本物の」、あるいは「正真正銘の」という意味。オーセンティックバーでは、黒いベストにスラックス姿の、訓練されたバーテンダーが接客をするのが一般的だ。 もちろん、筆者はカクテルのレシピもシェイカーを振る技術も持ち合わせていないから、店にはバーテンダーが常駐していて、自分はもっぱら企画やプロモーションに徹していた。普通にカウンターで飲んでいる日も多く、特にオーナー然と振る舞うこともなかったから、一見客には単なる常連の一人と認識されていたに違いない。 おかげで10年の間、経営と客のはざまで本当にいろんな客と出会うことができた。何より、もともと夜のバーホッピングが趣味で、無類のウイスキー好きであるから、裏側から見るバーの世界は実に興味深いものだった。 とりわけ客一人一人の振る舞いには、経営側に回ってみて初めて気付くことも多かった。率直に言えば、店にとって好ましい客とそうではない客には、明確な差があるのだ。その違いを、少し整理してみたい。
● “場慣れ感”が 裏目に出るパターンも多数 オーセンティックバーでは、どうしても客の年齢層が高くなる。ウイスキーマニアを自称する20~30代や、深夜の河岸を求めて若者グループが飛び込んでくることもあるが、基本的には40~60代がボリュームゾーンだ。生ビールが280円で飲める時代に、1杯1000~1500円もするカクテルを売る場所なのだから、それも当然だろう。 だからと言えば語弊があるが、変に場慣れした、横柄な客が散見されたのは事実である。バーテンダーが明らかに自分より年下だからなのか、初対面なのにタメ口のレベルを超えて失礼な物言いをするシニアが、定期的に現れたものだ。 「ねえ、何飲んだらいい?」 「ここは何時までやってんの?」 「おい、お勘定してよ」 面白いもので、初めて入ったバーでこうした言葉遣いをする客というのは、たいてい声量が大きい。それでいて、品良く飲んでいる他の客が迷惑していることなど、頓着もしない傾向がある。 バブル景気の頃の残滓なのか、この手合いにはバーテンダーにマウントを取りたがる人も少なくなかった。「昔、銀座のどこそこでよく飲んでいたんだよ」と業界では知られた名店の名をやたらと出したがったり、「普段は30年物のアイラを飲んでいるんだけどさ」などと高級志向をアピールしたり。 そんな客にも笑顔で対応するのがプロだから、バーテンダーも対抗心を燃やしたりすることはない。しかし、客のふりをして隣で飲んでいる筆者からすると、どうにも場を荒らされている感が拭えない。 カクテルを飲んで、「銀座のあそこはもっとこうだった」などと味を比較するような輩も時折見かけた。決してまずいと言いたいのではなく、「自分はツウだ」と主張したいらしい。バーテンダーそれぞれの個性を楽しむのも、カクテルの醍醐味だと思うのだが。