海面は上昇し、気温が上がる…気象災害が激増したこの世界はどこへいくのか
2011年3月11日、戦後最大の自然災害となる東日本大震災が発生した。あれから13年、令和6年能登半島地震をはじめ何度も震災が起きている。 【写真】日本人が青ざめる…突然命を奪う大災害「最悪すぎるシミュレーション」 しかしながら、これから起きうる大きな自然災害(首都直下地震、南海トラフ巨大地震、富士山噴火)について本当の意味で防災意識を持っている人はどれほどいるだろうか。 もはや誰もが大地震から逃れられない時代、10刷ベストセラーの話題書『首都防衛』では、知らなかったでは絶対にすまされない「最悪の被害想定」が描かれ、また、防災に必要なデータ・対策が1冊にまとまっている。 (※本記事は宮地美陽子『首都防衛』から抜粋・編集したものです)
増加する気象災害
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2023年3月に公表した報告書は、世界で気候変動の危機が生じていることへの警告を発した。 2100年までに世界の平均気温が産業革命前と比べて2度上昇した場合、平均海面水位は2014年までの20年間の平均から最大60センチ近く上昇するというのだ。生後3ヵ月程度の赤ちゃん1人分の水位が上昇する異常事態は、自然災害の被害が深刻化する時代に入ることを意味する。 「過去半世紀の気温上昇率は、2000年間で最も高くなっている。二酸化炭素の濃度は少なくとも200万年間で最も高く、気候の『時限爆弾』は刻々と進んでいる」 国連のグテーレス事務総長はIPCC報告書に関し、このように強く警告した。気象庁によれば、世界の年平均気温は上昇しており、2022年の基準値(1891~2020年の30年平均値)からの偏差はプラス0.24度で、1891年の統計開始以降6番目に高かった。日本に限れば、偏差はプラス0.60度で4番目に高い。 世界気象機関(WMO)は2021年8月、暴風雨や洪水、干ばつといった気象災害が過去50年間で5倍近くに増加したと発表し、地球温暖化が進行すればさらに頻度や強さは増すとみられている。日本は脱炭素社会の実現に向けた取り組みを強化しているが、地球上で温室効果ガスを大幅に削減できる「魔法」は見つかってはいない。世界では気候変動の影響を受けて異常災害が相次いでいる。 2012年10月に米国史上最大の都市災害といわれたハリケーン「サンディ」の襲来は、潮位が増す満月の夜で、ニューヨーク市のマンハッタンを中心に海面を3.9メートル上昇させ、高潮災害をもたらした。地下鉄や海底トンネルが水没し、約800万世帯が停電している。 サンディ発生後、市は壮大な気候変動プロジェクトに着手した。マンハッタンの東南部をU字型の高台で囲み、災害時には堤防、普段は憩いの水辺空間になる「ビッグUプロジェクト」が進行中。ニューヨーク港ではNPO主導で海水を浄化するカキを育て、洪水時には緩衝材として岸壁を守る「ビリオン・オイスター・プロジェクト」に学校や企業が参画し、学びの場にもなっている。 それでも、ニューヨーク市の諮問機関「気候変動に関するニューヨークパネル」(NPCC)は、2100年にマンハッタンの海岸は127センチ上昇し、最悪の場合には274センチ上昇する可能性があると警鐘を鳴らす。気候変動はこれまでの予測を超える凄まじいスピードで加速しており、起きることに対処していくだけでは間に合わない。 元ニューヨーク市都市計画局職員で、米国で都市政策専門のコンサルタントとして活動する古澤えり氏は「気候変動はエンジニアリングだけでは解決しない。建築やランドスケープはもちろん、教育や保健、社会福祉など様々な専門家が共同で取り組む必要がある。また、行政主導の手法だけに頼るのではなく、住民やNPOを巻き込んだプロジェクトに育てることが大事」という。 マレーシアでは2021年12月に「100年に一度」といわれる大洪水が起きた。通常の1ヵ月分に相当する一日300ミリ超の降水量を記録し、地滑りなどが発生。2022年には南アフリカ南東部で大雨による死者が500人超に達し、豪州でも春としては1900年以降で2番目に多い降水量がみられている。 つづく「『まさか死んでないよな…』ある日突然、日本人を襲う大災害『最悪のシミュレーション』」では、日本でかなりの確率で起こり得る「恐怖の大連動」の全容を具体的なケース・シミュレーションで描き出している。
宮地 美陽子(東京都知事政務担当特別秘書)