「中国が台湾寄りに変更」航空ルートが新たな火種になるのか?
中国の民間旅客機が2024年2月から、台湾海峡上空でこれまでより台湾本土寄りのルートを飛び始めた。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長は2月8日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、台湾にプレッシャーをかけている中国の動きについてコメントした。
中国経由のヨーロッパ旅行が人気
最近、日本からヨーロッパ方面に旅行するときの人気のルートは、中国経由だ。北京や上海などで乗り換えて、ヨーロッパ各地へ向かう。 人気の理由は3つある。まず、中国の航空会社のチケットが比較的安いこと。次に中国からヨーロッパ各都市への路線がたくさんあること。そしてもう一つは、中国の航空会社は今もヨーロッパへの最短ルート、つまりシベリア上空を飛んでいるからだ。所要時間が短くて済む。 ロシアがウクライナに侵攻して以降、ヨーロッパと東アジアを結ぶ多くの民間航空会社の飛行機は、ロシア上空を飛ばなくなった。それによって飛行時間も、燃料も大幅に増えた。ただ、中国だけは依然、民間機がシベリアの上空を飛んでいるということだ。
台湾海峡の飛行ルートを中国側が変更
だが今回の本題は、中国とロシアではなく、中国と台湾の間での、中国の民間航空会社だけが飛ぶ、特殊な飛行ルートの話だ。 中国政府の航空部門(=中国民用航空局)は2月から、台湾海峡上空に設定している民間機の飛行ルートを変更した。つまり、中国の旅客機は2月から、これまでより、中国と台湾の間の「中間線」に近いルート、即ち台湾本土寄りのルートを飛び始めた。 中国側は「この空域の混雑を避けるため」また「運航効率を上げるため」と説明するが、台湾は「民間航空路線を台湾への政治的、軍事的圧力に使っている」と反発している。 台湾本土と中国大陸の間にある台湾海峡。もっとも狭いのは台湾北部で、距離にして約130キロメートル。九州新幹線の博多~熊本間が118キロメートルだから、ほぼ同じ距離だ。民間航空機が飛ぶルートには、それぞれアルファベットと数字で名前が付いている。今回、問題になっているルートは、台湾海峡を南北に飛ぶ「M503」と呼ばれる飛行ルートだ。 発端は2015年のこと。中国当局は「中国の民間航空機はM503を使う」と公表した。一方の台湾側は安全保障上の懸念を示した。そこで、中国と台湾の間で協議が行われた。その結果、中国の民間機は①北から南へ向かうルートに関しては、M503ルートの中国大陸側約11キロメートルずらして飛ぶ②一方、南から北上するルートに関しては、このM503ルートは供用しない。供用を始める際に中国と台湾の間で再協議する――この2点で合意した。 2015年といえば、台湾の政権は中国との融和路線を進んでいた国民党政権だった。だから、そのような合意が可能だったのだろう。だが、その3年後の2018年、中国は南から北の方向へ向かうフライトについて、M503ルートを運用し始めた。 たとえば、香港から上海へ向かうフライトなどがこのルートを使う。改めて紹介するが、このM503というルートは、中国と台湾の間のほぼ「中間線」に近いルート。2018年からは台湾本土寄りに飛び始めたのだ。 2018年、台湾ではすでに政権交代が起きていた。国民党から、中国と距離を置く民進党の政権になっていた。さらに、今年2月からは、保留していた北から南へ向かう飛行ルートも、M503ルートの中台中間線寄りを飛ぶようになった。中国大陸側にずらすのをやめ、こちらも台湾本土寄りに飛び始めた。 台湾では1月、総統選挙があり民進党が政権を維持し、中国が望まない結果になった。そして中国側が「根っからのトラブルメーカー」と非難する頼清徳氏が5月、新しい総統に就任する。このタイミングで、飛行ルートを台湾よりに突然、変更するというのは、頼清徳氏の就任を前に、圧力をかけたというとだろうか。