静岡・安倍奥 初冬の山里を彩る黒俣の大イチョウ
静岡市葵区黒俣は安倍川水系が走る南アルプスへと連なる山々の麓、安倍奥と称される一帯に位置する。その山間に点在する集落にひときわ大きなイチョウの木が1本立っている。黒俣の大イチョウ。秋に黄色く色づいたその大木は、やがて葉を落とし、安倍奥に冬の訪れを告げる。
安倍川の支流、藁科川沿いに国道362号を行くと、やがて藁科川から枝分かれする黒俣川に至る。紅葉が鮮やかな延長7.5kmの黒俣川の谷に沿って県道32号線(藤枝・黒俣線)が通っている。 文献によれば、この道路は東海道が不通になった時の軍事輸送を目的に旧陸軍省の指示により作られた道路だという。黒俣の大イチョウは、その県道32号線沿いに点在する集落の小高い一角に立っている。
「昔、大イチョウの下にお寺があり、イチョウは、そのお寺のお坊さんが中国からもってきて植えたものと言われている」と土地の古老は話す。市文化財課によれば、樹木の高さ20m、枝は東西、南北に17m張り、根の周囲は13.3m、幹の太さは8.3mあるという。
イチョウには雌株と雄株があるが、黒俣の大イチョウは雄株なのだそうだ。1965年に県天然記念物に指定されている。樹齢は300年とも、500年とも言われているがはっきりしたことはわからない。「100歳になる老人が昔からあのままだと言っている」と近隣住民。最近は観光マップなどで紹介されることも多く、ライダーたちがツーリングの途中に立ち寄ったり、観光客が訪れることも少なくないようだ。 (取材・三好達也)