石原さとみ「美しくなることに疲れた」その先で。ドラマ『Destiny』インタビュー
──『ミッシング』も拝見しましたが、これまでの石原さんのイメージを覆す、張り詰めた演技に驚きました。 念願が叶い、吉田恵輔監督とご一緒できたんですが、本当にいろんなことを学んだ、とても貴重な現場でした。恥ずかしながら正直に言うとこれまで、役者の皆さんが「映画って最高」とおっしゃる意味がよくわからなかったんです。それを初めて理解できた喜びがあって。この経験の後に、今回の『Destiny』の撮影に入れてよかった。ようやく知れたお芝居の面白さを、もう一度追求しようという気持ちでした。 ──吉田監督の現場でどんなことを学んだのでしょうか? なんて言えばいいんでしょう……、演技において“人を生きること”や“動物的な本能で動くこと”を知ったというか。集中しようと頑張らなくても、勝手にその世界に入ってしまう感覚がわかったんですよね。というのは、吉田監督からは何度も「お芝居じゃなくて、もっと“ドキュメンタリー”が撮りたい」って言われて。例えば何か物を取るにしても、普段は手に意識がいかないじゃないですか。でもカメラの前で意識してしまうと、監督にすぐバレて指摘が入るんです。そういう現場は初めてでした。 “その世界で生きる楽しさ”っていうのかな。「ああ、映画で活躍されている俳優さんたちは、みんなこれを知っていたんだな。私は知らないまま、長年この仕事をやってきたな」と思って。無意識を意識するということを学び、やっとスタートラインに立てた気がしているんです。 ──無意識を意識する、ですか。 はい。『ミッシング』でご一緒した方たちからは、「次の作品ではきっとまた嘘をつかなきゃいけないから辛いと思うよ」って言われました。けど幸いなことに、『Destiny』も“嘘”が嫌いな現場だった。吉田紀子さんが命を削って書かれた脚本を、この身で体現するにはどうすればいいかをひたすら考え続けました。おそらくですが、亀梨さんをはじめ同世代のメインキャストのみなさんもどこか同じ思いを共有していたと思います。その思いがどう生かされているかも、どこを切り取られるのかもまだわからないですけど、少なくとも私自身は以前みたいな感覚で演じてはいないです。『ミッシング』で得られたものと地続きにある、同じように大切な作品です。 ──これまで石原さんがドラマで演じてきたエネルギッシュな主人公たちには、リアルというのとは異なるけれど、目が離せない魅力がありました。でも『Destiny』や『ミッシング』を経て、またちょっと違うステージに進んだということですね? まさしくです。私が10代の時に思い描いていた夢っていうのは、キラキラしたドラマの中で輝いている女性になることでした。生きることに貪欲で、生命力に満ち溢れていて。それにすっごい憧れていたんですね。だから、25歳くらいからそういう役を演じられるようになって嬉しかった。 でも、やっぱり30歳を超えたぐらいで、なんとなく飽きてきているなと自覚して。ということは、そのうち確実に世の中も飽きるはずだから、早く手を打たなければと焦りました。そこで、吉田恵輔監督が作り出すあの世界に呼ばれる人間になりたいと思ったんです。もう手当たり次第に、あらゆる人に「吉田さんを知らない?」って聞いて回り、ついにつながることができて、ご本人に「何がなんでも一緒に仕事がしたいです!」と直談判しに行ったんです。でも、最初は断られて。 結果、実現まで6年がかかりました。その間に私は妊娠・出産を経て、もう美しくなることに疲れていた。子どもという、なりふり構わずに生かさなければいけない存在を知り、それをふまえた上で『ミッシング』、次いで『Destiny』に参加できたっていうのは、とても大きい出来事。その転機を経て、今後の人生をどうしていくかにおいては、作品選びがまたすごく難しい。よく考えなくちゃいけないですね。