<ベトナム>堪えきれない涙 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
ダナンの空港から目と鼻の先にある長屋の一角、グイェン・バン・ドゥングの家を訪れた。居間にはいるとまず目にはいってきたのが、ひとりの幼子の遺影だった。ドゥングさんの次女ハンのものだ。生まれつき頭蓋骨に大きな割れ目があり、さらに血液の病を患っていたハンは、7歳で亡くなった。ドゥングさんが、北部のタンホアから空港で働くためにダナンに移ってきたのが1996年。それからずっと彼は施設内の下水処理、そして妻のトゥーさんは売店で働きつづけている。ハンは、彼らがここに移ってから生まれた子だった。 不幸はそれだけでは終わらなかった。もうすぐ1歳になる息子のガオも、ハンと似た病を患っているのだ。毎月一回、病院で4-5時間かけて輸血を受けなくてはならない。 「輸血のあいだ、泣きわめくガオをずっと押さえていなくてはならないんだ。不憫だよ」 話をするドゥングさんの目がみるみる潤んできた。 「俺は男だ。滅多なことでは泣けないんだが、ガオを病院に連れていく時だけは、どうにも堪えきれなくなってしまうんだ…」 (2009年7月) ---------------- 高橋邦典 フォトジャーナリスト 宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。 Copyright (C) Kuni Takahashi. All Rights Reserved.