アサド政権崩壊に沈黙する北朝鮮 スマホ導入を後悔しているのか
北朝鮮の人々が携帯やスマホを使って政治的なやり取りをする時期も遠くないかも
一方、よく知られているように、2011年に始まったシリア内戦の発端は、同年にチュニジアからアラブ諸国に広がった「アラブの春」だった。アラブの春では、人々がSNSで連絡を取り合い、抗議活動の輪を広げていった。 北朝鮮は一時、携帯電話事業を停止した後、2008年に3G回線の携帯電話事業を導入した。慎重な姿勢をみせていた金正日総書記を、娘の金与正氏(現・朝鮮労働党副部長)が「これからは情報化の時代だ」と言って説得したとされる。2013年ごろからスマートフォンも登場し、現在の携帯普及率は600万台以上とみられる。北朝鮮は停電や断水、食料不足など様々なトラブルに見舞われている。携帯・スマホは、「どこの市場に行けば、コメが安く買える」「この区域で電車が止まっている」など必要な生活情報を得るために欠かせないツールになった。 もちろん、北朝鮮は市民が携帯・スマホを使って政治的な情報を交換したり、政府への抗議活動に利用したりすることを警戒している。インターネットは使えず、「光明」と呼ばれるイントラネットしか使えない。脱北した元党幹部によれば、SNSや通話のやり取りは自動的に記録され、3年間は保存される。キーワード検索機能を使い、問題があるやり取りを素早く探知する機能も発達しているようだ。高位幹部の携帯・スマホは24時間体制で盗聴されている。 それでも、バラバンディ氏は「(政府を支持する)集会を開いたからといって、市民が最高指導者を尊敬するわけではない。福利厚生や治安などを政府がきちんと保証することで、指導者への信頼が生まれる」と語る。 金正恩氏は新興富裕層の台頭を恐れ、市場を開く時間帯や従事者、取り扱い品目に厳しい制限をかけている。物流に問題が生じているほか、国内通貨への信頼低下、公務員の給与引き上げの反動などで、最近は食料価格が急騰し、北朝鮮ウォンの価値が急落している。ロシア南西部・クルスク州に派遣された北朝鮮兵士の死傷者も徐々に増えている。 アサド政権は1971年から53年後に崩壊した。北朝鮮は来年、日本植民地からの解放80年を迎える。脱北者たちは一様に、「スマホや携帯は盗聴されていると考えていたので、政治的な話は控えていた」と口をそろえる。ただ、北朝鮮を逃れた時期が新しい人ほど、北朝鮮指導体制に対する不満や疑問が強くなる傾向がある。北朝鮮の人々が携帯やスマホを使って政治的なやり取りをする時期も遠くないかもしれない。
牧野 愛博