大河でも注目の玉置玲央、映像と舞台の演技に垣根はない 演劇ブームの熱狂をもう一度取り戻せたら
NHK大河ドラマ「光る君へ」藤原道兼役の熱演でも話題を集めた俳優・玉置玲央が、8月11日(日)より紀伊國屋ホール開場60周年記念公演KOKAMI@network vol.20『朝日のような夕日をつれて2024』に出演する。作・演出を務める鴻上尚史の劇団「第三舞台」旗揚げ公演として、1981年の初演から繰り返し上演されてきた本作だが、今回初めて全キャストを30代のニューメンバーに一新。名作に挑む意気込みや、舞台と映像を自由に行き来する自身の活動について、たっぷり話を聞いた。 【撮りおろし12枚】アンニュイな笑顔が魅力的な玉置玲央 ■演劇ってやっぱり圧倒的に“体験” ――「朝日のような夕日をつれて」(以下「朝日」)は今回で10年ぶり8回目の上演となりますが、例えば大河ドラマで初めて玉置さんを知ってこの作品に興味を持つという方もいらっしゃるかと思います。玉置さんから見たこの作品の面白さや、長く愛される理由はどんなところですか? 鴻上さんが書かれる脚本って、その時代を切り取っているから、毎回新しいものを取り入れていて、二度と同じ「朝日」はないんです。とはいえ、やっぱり作品自体の根底に流れている熱量や演劇的面白さは変わらないんですよね。だから、変わらない部分が脈々とある中、時代やそれを演じる人間が変わっていくことで姿を変えながら作品が完成するのが、面白いところかなと思います。 ――「根底に流れている演劇的面白さ」とは? 演劇ってやっぱり圧倒的に“体験”だと思うんです。劇場という空間で上演される作品を目の前でリアルタイムで浴びるのは、経験ではなく体験になる。この作品は熱量も高いしセリフ量も多いから、その部分が強い。 ――玉置さんは2014年の上演にも医者=少年=E役で出演され、今回は初演からずっと大高洋夫さんが演じてきた部長=ウラヤマ=A役での出演となります。10年前にこの作品に出演されたことは、ご自身にとってどういう経験になっていますか? 僕が高校生くらいの頃、「朝日」は先輩みんなが「絶対観た方がいいよ、読んだ方がいいよ」って勧めてくださって、いつか何かしら関わらせていただけるなら光栄だなって思っていた作品なんです。それに2014年に出演することができて、自分の中でひとつ達成できた感覚がありました。そこから、またそういうご褒美のような作品や体験が待ち受けていたらいいなと思って、この10年頑張ってきたのかなという気がします。今回は初演から大高さんが演じてこられた役ですが、意外と気負いや緊張はあまりなくて。それは10年経った自分の成長だと思いたいんですけど(笑)。楽しみな方が強いです。 ――鴻上さんのコメントで「朝日はとても演技的に難しい作品だから、簡単には、できないんです」とおっしゃっていたところから、今回初めてキャストを一新したということで、新キャストにどんなことを期待されていると思っていますか? この作品は、僕自身もそうですけど、いろんな方の脳裏や魂の部分にすごく刺さっている作品だと思うんですよね。なので、今回の新しいメンツでやる「朝日」が誰かの心に刺さって、「いつかこの舞台に立ちたい」とか、「人生狂わされた」みたいに思ってくださる方がいたら万々歳だなと思います。 ■新しい引き出しを開けて、宝物を見せ合う稽古場 ――今回の出演で新たに発見した作品の魅力や、印象が変わった点があれば教えてください。 今回、僕が39歳で座組の最年長、最年少も30歳なので、出演者の年齢差がぐっと縮まって、ずっと演じてきた方とは違う全く新しい発想が出てくるところがあります。年齢によるものなのか、この作品に対する思いによるものなのかわからないですが、作品が変容していく姿を目の当たりにできているのかなと思います。 ――今回ご一緒される共演者の皆さんについて、印象をお伺いしたいです。 (一色)洋平は、10何年前から面識があって、「いつか共演できたらいいね」って話していて。今回初共演になるんですが、僕が10年前に演じていた役なので、なんだか感慨深い思いで見ています。10年前の自分を見るかのように「頑張ってるな」って。結構暴れ回る役なんですが、洋平はメンタルもハートも、身体ももちろん強いので、その戦ってる姿はすごくかっこいいなって思います。 稲葉(友)も10何年前から知っていて、交遊もあるので、久々の共演が楽しいです。今改めて共演すると、「お互い大人になったね」ってしみじみとした気持ち。シンタ(安西慎太郎)に関しては、初めましてなんですが、すごく引き出しが多い。リアルにもできるし、カッコつけることもできるし、抜くことも外すこともできる。声もちゃんと出て、肉体もしっかりしてる。 準ちゃん(小松準弥)も観たことはあったんですけど、ご一緒するのは初めて。相方のような役なんですが、役の上での役職や年齢は準ちゃんが上で、実際は僕が年上なんで、その辺のバランスがすごく面白いです。甘えさせてもくれるし、甘えてもくれる。不思議な感覚ですね。あと、すごく顔がキレイです。めちゃくちゃ男前 (笑)。 ――稽古場で楽しいなと感じられていることがあれば教えてください。 シンタが代表ですけど、自分には圧倒的にない引き出しが出てくるんですよ。それは経験、年齢、触れてきた演劇、キャリアとかいろんな要因があると思うんですけど、自分の文脈に全然ないものが出てくるのが、この「朝日」にすごく合ってる。10年前の2014年のときは、先輩方に食らいついていくって部分が強かった。でも今は本当に新しいメンバーで、新しい感覚で新しい引き出しを開けて、いろんな宝物を見せ合って「俺こんなの持ってるよ」「じゃあこれ持ってる、交換しようぜ」みたいな感じでやれてるのが面白いです。 ■演劇ブームの熱狂をもう一度取り戻せたら ――今回、「生の藤原道兼が見たい」という方もいらっしゃるかと思いますが、大河の影響は感じていますか? どうなんでしょうね。僕は大河の出演回が終わってからすぐに1本舞台をやらせていただいて、劇団公演だったんですけど(柿喰う客「殺文句」)思ったほど反響はないなと思いました。やっぱりドラマでも出番が終わって日が経つにつれ、新しい登場人物も出てきて記憶から薄れていく。ただ劇団の公演では一言も喋れない役だったので、もし大河をきっかけに観に来て下さって「玉置さんの声を聞きたかったのに喋らないじゃん」って思ってる方がいらっしゃったら、今回はいっぱい喋るから聞いて!とは思います(笑)。 ――とはいえ、SNSを見ていると、大河ドラマをきっかけに初めて舞台を観に行ったという声をかなり見かけた印象があります。今の日本だと演劇を観る層が限られている中で、幅広い方が視聴するNHKのドラマに出演して、その後すぐ劇団公演に出演するというのは、ご自身が演劇への架け橋になりたいという気持ちもありますか? 確かに、今回の劇団公演のお客様アンケートで、今までは20~ 30代の方が多かったところに、40~50代の方がすごく増えたんです。それはもしかしたら大河の影響なのかもしれないなと。僕は映像作品も舞台も好きですが、もう少し舞台の世界に還元できるような良いサイクルを作れないかな?とうっすら考えながら俳優をやらせていただいてて。 演劇ってすごく限られた芸術で、生で体験しなきゃいけない。日常生活の中で勝手に入ってくるものではなくて、お客様自身に一歩足を踏み出していただく必要があるので、そのために何ができるだろうって考えています。それこそ2.5次元は劇場に人が足を運ぶ流れを作ってくれていて、すごい発明だなと思うんですけど。 第三舞台が活躍してた時代って、第三次演劇ブームと言われて、舞台を観ることがトレンドだったんですよね。ネットも発達してないから、口コミで噂が広まって人が集まるみたいな。僕らはそのブームの終わりの方に触れて、そのロマンを感じながら育ってきた世代なんで、どこかでその熱狂をもう一度取り戻せないものだろうかって考えたりもするんですよ。同世代の俳優とそういう話もするし、そういうことをやれたらいいなと思いながら舞台に立ち続けてます。 ――以前玉置さんのブログで、「ドラマと舞台でお芝居に違いはない」という内容を拝見しました。実際、道兼が慟哭するシーンはSNSでも反響が大きくて「シェイクスピアみたい」という声があったりもしたので、良いお芝居に媒体の垣根はないのかなと感じたんですが、演じる上での意識はいかがですか? 垣根は感じてないですね。「光る君へ」のお芝居は、舞台のお芝居だとも映像のお芝居だとも思ってなくて、道兼の心情と台本の流れから、こういう表情になる、こういう身体の使い方になる、と思ってやった結果です。僕自身はどんな役でもそうなので、演技を媒体によって変えているとかはないです。 昔は映像に出ると「玉置さん、ちょっと声でかいです」「お芝居が大きいです」「もうちょっと普通に喋れますか」とか言われて、それがすごくコンプレックスだったんですよね。舞台の世界で生きてる人間って映像では通用しないのかなと思った時期もあったんですけど、そんなことはないんだなと。やるべきことをきちんと考えて実践して取り組めば、垣根はないし、そもそもそんな考え方すら必要ないんだなと思うようになりました。 ――最後に、お忙しい日々かと思いますが、日々の癒しになっていることがあれば教えてください。 何だろう…でも結局散歩ですかね。趣味が散歩なので、カメラを片手に歩いて、「おっ」と思った風景の写真を撮るのが好きです。舞台とかお芝居って、僕にとってすごく非日常で、散歩したり家で過ごしたりする時間は圧倒的な日常。それが乖離しているほど僕は健全に過ごせて、活動への原動力にもなるのかなって気がしています。 ■取材・文/WEBザテレビジョン編集部 撮影/市川秀明 ヘアメイク/西川直子 スタイリスト/森川雅代