「世の中の罵詈雑言を食って生きていく」恵まれない少女が伝説の極悪ヒールに。『極悪女王』が描くダンプ松本の生き様
髪の毛一本まで魂が宿っているかのような演技
次に、『極悪女王』の魅力は何といっても、俳優たちの振り切った演技です。まずダンプ松本役のゆりやんさん。最初は純朴で、プロレスに憧れるおぼこい少女だった松本香が、日本中を震撼させる世紀の悪役・ダンプ松本に転身する、その切り替えが本当にすごいんです。ダンプ松本として覚醒するまでは、本当に純真で、気弱で、めちゃくちゃ可愛らしいんですよね。この子がダンプ松本になるの? 信じられない! という感じ。でも、ダンプ松本になった瞬間、完全にスイッチが入って、ふてぶてしくて豪胆でイカつくなる演技は、もはやゆりやんさんにダンプ松本さんが憑依したかのよう。髪の毛一本まで魂が宿っているかのような、その場の空気さえ変えてしまう演技に心が打ち震えます。
「クラッシュギャルズ」ふたりにも目を見張るばかり!
そして、ダンプ松本の宿敵・長与千種役の唐田えりかさん。長与千種は当時、アイドル的人気を誇ったスター選手。天性の主人公性と、意志の強さ、芯の強さを兼ね備えた役どころ。上にモノ言うシーンも多いのですが、前をくっと見据えるシーンはハッとさせられる凛々しさがあります。残酷な試合のシーンがあまりに多く、地上波では絶対流せないようなショッキングな血みどろのシーンもあるのですが、手加減ゼロ・満身創痍で感情を剥き出しにして挑む姿に胸を揺さぶられます。清純派の俳優だったら絶対演じられないような役どころで、不倫騒動を経て一皮も二皮も剥けた唐田さんだからこそ演じられた役なのではないかと思います。 クラッシュギャルズのもうひとり、ライオネス飛鳥を演じるのは剛力彩芽さん。ダンプ松本・長与千種ら同期の中で一番初めにプロデビューを決めた実力派。短髪で凛々しく、精悍なレスラーです。驚かされるのがその抜群の身体能力。元々ダンスをしている剛力さんなので運動神経は抜群なのでしょうが、それにしてもあまりにも身のこなしが軽やかで技のキレが素晴らしく、美しくて見とれてしまうほど。役のために肉体改造したというだけあって筋肉も仕上がっていて、並々ならぬ努力をしたことが伝わってきます。 脇を固める俳優陣も、みなプロレスの技があまりに上手くて、本当に俳優さん?! 本物のレスラーじゃなくて? と疑いたくなるほど。メインキャスト以外は有名ではない俳優さんも多いのですが、オーディションで本当にハマる人を選びに選んだんだろうなというのが伝わってくる配役ばかり。
