米国で日本の印象を悪化させ日米開戦への背中を押した「ドラゴン・レディ」とは 蒋介石の妻の華麗で激烈な105年の生涯(レビュー)
現代史における「奇跡の三姉妹」かもしれない。宋家の三姉妹だ。長女の宋靄齢は財閥の孔祥熙と、次女の宋慶齢は革命家の孫文と結婚。そして三女の宋美齢は蒋介石の妻となった。 譚ロ美『宋美齢秘録 「ドラゴン・レディ」蒋介石夫人の栄光と挫折』は宋美齢の本格評伝だ。副題のドラゴン・レディとは、パワフルで狡猾、短気で傲慢、加えて神秘的なアジア人の女傑を指す。20世紀前半の米国でそう呼ばれていた中国人女性が、清朝の女帝・西太后と宋美齢だ。 著者は宋美齢を新たな角度から捉え直していく。米国から見た存在の大きさ。日本に与えた影響。さらに今日の日中関係や日米関係との繋がりなどだ。中でも日中開戦直後に彼女が果たした役割に驚かされる。 1937年9月、宋美齢は南京から英語で対米ラジオ放送を行った。日本の国際条約違反に対して、世界はなぜ沈黙しているのかという問いかけであり、悲痛な訴えだった。メッセージは全世界へと発信され、新聞各紙が全文を掲載した。 その後、宋美齢は米国議会での演説と全米講演旅行を敢行。米国国民は彼女の言葉を介して中国のイメージを作り上げ、侵略国・日本の印象は悪化する。中国が米国から多額の軍事支援を引き出すことに貢献し、日米開戦へと向かうようにその背中を押したのが宋美齢だと著者はいう。 彼女はいかにしてドラゴン・レディとなったのか。華麗にして激烈な105年の生涯が明らかになる。 [レビュアー]碓井広義(メディア文化評論家) 1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年にわたりドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。著書に「少しぐらいの嘘は大目にー向田邦子の言葉」(新潮社)、「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」(同)、「ドラマへの遺言」(同)ほか。毎日新聞、北海道新聞、日刊ゲンダイなどで放送時評やコラムを連載中。[公式サイト]碓井広義ブログ 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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