「国境通信」協力企業の撤退で振出しに戻った事業~日本にいる間に考えたこと 川のむこうはミャンマー ~軍と戦い続ける人々の記録 #8
地元の市場にもっていけば倍近い値段で買い取ってくれるのに、わざわざ安く売るように強制することはできない。 支援のために取り組んでいる以上、こちらとしても譲れない主張ではあったが、それでもこの決断を伝えるのはつらかった。 それは、この協力企業との決別を意味することがわかっていたからだ。 野菜を買い取れないということは、企業にとってはここまでの投資が無駄になるわけで、受け入れられるはずがない。 買取価格を見直してでも継続の道を探るか、この事業自体をきっぱりとやめてしまうか、そのどちらかを決断せざるを得なくなる。 そのことを十分に理解したうえでの通告だった。 メッセージを送ってから2時間もたたずに、担当者から事業の撤退を伝える連絡が来た。 企業内では、とっくにその結論は出ていたのかもしれない。 ■「〇〇さんは大丈夫なのか?」アインのつぶやきに・・・ アインにはすぐにすべての事情を正直に伝え、事前の検討不足を謝罪した。 救いは、オクラが順調に育っていることだった。 オクラの栽培・収穫さえ成功してくれれば、売り先がどこであれ、彼らの収入になる。 支援しようとして、逆に彼らの不利益につながる結果になることだけは避けたかったので、その点では少しだけ安心することができた。 アインには収穫できたオクラはすべて好きなところに売っていいと伝えた。 一番高い値段で買い取ってくれるところに売って、少しでも多くの収入が得られるように。 アインから状況を理解したという趣旨の返信があり、最後に「〇〇さんは大丈夫なのか?」と、撤退した協力企業の担当者を心配する言葉があった。 会社の中で担当者の立場が悪くならないかを気にしているのだ。 実はアインは、担当者が国境地帯に足を運ぶたびに、それによって企業が負担するであろう費用のことを考えて複雑な気持ちになっていたそうだ。 「正直なところ、どうやって企業が利益を出すつもりなのか、わからなかったから・・・」事業の行き詰まり感はアインにも伝わっていたのだと知って、改めて辛い気持ちになった。 もっともっとアインとも会話をしながら事業を進めるべきだった。自分の能力のなさを実感するとともに、同じ失敗は繰り返さないと誓った。 (エピソード9に続く) *本エピソードは第8話です。 ほかのエピソードは以下のリンクからご覧頂けます。 #1 川を挟んだ目の前はミャンマー~軍の横暴を”許さない”戦い続ける人々の記録 #2 野良犬を拾って育てる避難民 #3 農園の候補地を下見 タイ人の地主に不審者と間違われる #4 治安の悪化のニュース そして深夜に窓を叩く音 恐る恐る外を覗くと・・・ #5 オクラを作ろう!ようやく動き出した事業 #6 アインの妻が妊娠 生まれてくる子供の未来は #7 オクラの栽培がスタート しかし”目の前が真っ暗”に…支援とビジネスを両立する難しさ #8 協力企業の撤退で振出しに戻った事業~日本にいる間に考えたこと #9 違和感ぬぐえぬ、福岡市動物園ゾウの受け入れ