「初任給引き上げ」「ベア」は背景に注意! 痛い目を見る前に知っておきたい“高賃金のからくり”
新卒初任給の引き上げや既存社員の賃金ベア(春季労使交渉で決まる賃金のベースアップ)のニュースが増え、足元の雇用環境が改善傾向にあると感じている方も多いと思います。 しかし油断は大敵です。最近の賃金高騰の背景には何があるのか、そしてこれから就職や転職活動を行う上で何に注意すべきかを解説します。
◆30年間続いた日本の低賃金は本当に克服されたのか?
これまで日本の賃金水準は国際的に見ても低い水準が長年続いていました。 例えばOECD(経済協力開発機構、日米を含め先進38カ国が加盟)の中では韓国より下の24位、平均賃金額は1位のアメリカの半分以下とお粗末な状況にありました(2021年平均賃金調査)。 まさに日本は長期にわたってデフレによる低成長と低賃金の悪循環から抜け出せずにいたのです。 そのため政府はデフレ脱却・賃金引き上げを重要テーマに設定し、官民一体となって政策を推進してきました。 政府の目論見は、経済成長と生産性向上による高賃金の実現、そして高賃金(購買力の上昇)を背景に消費を拡大し、さらなる経済成長を図ることにあります。 この点、最近の株高や賃上げ状況を見ると、政府の政策はかなりうまくいっているように思えます。しかし、足元ではエネルギー価格を中心に物価が上昇しています。 また今回の賃上げによる人件費増をこの先企業が製品・サービス価格に転嫁することも考えられます。そうすると物価上昇が賃上げ率を上回ってしまう懸念も想定されます。手放しで賃上げを喜ぶことはできませんね。
◆賃金高騰の本当の原因は人手不足にある?
賃金が上昇する場合、一般に2つの原因が考えられます。1つは労働生産性の向上です。AIの活用や設備投資によって労働生産性が向上し、働き手が作り出す付加価値が増加することで賃金の引き上げ原資が生み出されます。 もう1つが人手不足(労働市場の需給関係の逼迫)です。少子高齢化で働き手が少なくなり売り手市場となると、人材採用を巡って企業間での競争が激化し、他社よりも高い賃金を提示しないと採用には至らなくなります。 必然的に新卒者や中途採用者の賃金を中心に賃金水準が上昇します。 筆者の周囲の企業や報道などを見ても、今回の賃金上昇の主な原因は、労働生産性が向上したからではなく、人手不足にあるようです。実際、人材募集で苦労している会社が「競合より高い水準を提示して採用競争に打ち勝つ」と言っているケースが目立ちます。 新規採用者の賃金を引き上げると、バランス上、社内の人材の賃金水準も引き上げざるを得ません。今年の春季労使交渉(春闘)で大きな賃上げが実現できたのも、こういった背景があるのです。 中小企業についてはこれから5月に向けて賃金交渉が本格化しますが、中小企業(従業員300人未満)の賃上げ率は33年ぶりとなる5%超えの水準を維持しているようです(連合調査、4月2日現在)。 中小企業も採用競争にさらされており、これからが正念場です。